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離婚します 第二部

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離婚します 第二部

39 - 第39話 綾菜の場合(13)

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2024年11月05日

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思わず取っ組み合いになるかと思って身構えたのに、マリは正座したまま。

すぐ後ろにあるセミダブルのベッドからは、むせかえるような生々しい気配が立ち上がる。

ちょうどいい感じに盛り上がったところで、私が入ってきたというところだろうか。


「あなたをひっぱたいても、私の手が痛いだけ。それよりも、聞かせてほしいんだけど…」

「なんでしょうか?」


私は呆然としてる健二を一瞥して、マリに問う。


「コイツ、欲しい?」

「いえ、欲しくありません」

「でも、こうやって隠れて会ってたわけだし、することしてたんでしょ?それは健二が好きだからじゃないの?」


マリは一点を見つめている。


「好きだからじゃないです、むしろ嫌いです。私が欲しかったのは健二…ご主人ではなく、性欲むきだしの男です。やりたくてたまらないという男とセックスがしたかっただけです」

「はぁ?それじゃまるで、依存症ね、セックスの」

「そう言われてしまえば、そうです。奥様にはお借りしてるつもりでした。ですから決してバレないようにと…。で、このまえバレたと聞いたので、もう会わないつもりでしたが…」


「コイツがのこのこやってきたのね」

「…」

「で何回もチャイムを鳴らして強引に中に入って…」


先ほどの、健二が部屋に入るまでの様子を思い出す。


「その後も、強引にベッドに押さえ込んだんじゃないの?」

「納得だよ、強引じゃないよ」

「うるさい!黙れ!バカ健二!ねぇ、マリさん、いっそのことレイプされたと言って警察に訴えたら?」

「え?」

「私が証人になってあげるわよ」


マリは驚いた顔でじっと私を見た。


「綾菜、何言ってるの?警察なんか呼んだらさ…」

「現行犯逮捕ね、会社もクビかなぁ?私も恥ずかしいからさっさと離婚するけど?」

「俺、レイプ犯?」

「どう見てもそうでしょ?なに、そのかっこ!」


まだ中途半端な服装のままだ。


「そっか、マリさんもいらないのか、私もいらないんだ。じゃあ、捨てちゃおっか?」

「やめて、お願い!警察だけは!通報しないで」


スマホを手にした私に、泣きそうな顔で訴える健二。

こんな男が私の夫で翔太の父親だと思うと、無性に腹が立つ。

セックス依存症なのは健二かもしれない、それも私以外の女に。


「マリさん、もう一つ質問。コイツ、なんで私とはしたくないか、聞いてない?」

「あ…、確か、ニオイがダメだと言ってました。赤ちゃんが産まれてから、女のニオイではなくお母さんのニオイになったからとか」


お母さんのニオイとは、母乳や石鹸のニオイのことだろうか?

先日の千夏のご主人のことを思い出した。

でも、まぁ、できないことはないってことは、この前の夜証明されたけど。


「この前の土下座といい、オレンジの薔薇といい、健二が思い付いたとは思えないんだけど…」

「……私です」

「だよね?なんで?」


正座したまま、表情は変えないマリ。

うまく言えないけど、健二が言うことより、マリの話の方が信用できる気がした。

夫の浮気相手なのに。


「私は同棲していた相手にフラれて、ヤケクソみたいにこの人を誘いました。奥さんとお子さんのことが一番大事なんだということは、最初からわかってました。

家族が一番大事だと言う人は、後腐れもないし隠し事も上手いと思った…けど」

「思いの外、バカだったのね、コイツ!」


うなだれるマリ。


「私、どうしてかわからないけど、無性に腹が立ってるのは健二に対して。今すぐ捨ててしまいたい!」

「え?離婚?それはイヤだ!!」


健二が泣いてる。

自分がしたことを棚上げして、おかしな格好のままで座り込んで泣いてる。

でも、同情の気持ちさえも湧かない私は、健二には好きという気持ちがなくなってしまったのだろうか?


「すみませんでした。私の身勝手な欲望でご夫婦の関係を壊してしまいました。私はご主人をとってしまおうとかそんな感情はなく、いっとき相手をして欲しかっただけです。それがどんなに浅はかで、みっともなくやってはいけないことか?わかってるつもりで、わかっていませんでした…」


「ね?どうして健二なの?独身男だったら何も問題なかったのに」


しばらく考えているマリ。


「子供が産まれてすぐくらいの男性のほうが、性欲が溢れてるから…」

「奥さんに相手してもらえないとかで、欲求不満ってことか」

「だと思います」

「そこを見透かされてるの?健二は。情けない…。これなら風俗の方がマシかもね」


私は踵を返して、靴を履く。


「え?綾菜、帰るの?」


健二が止めるのは分かってたけど、これ以上話しても意味がないと思った。

思い切りドアを閉める。

ここでもっと取り乱して暴れるほうが普通のような気もするけど、そんなことをするとマリに負ける、と思った。

なにより、そこまでの感情が私にはなかった。


この後、マリはもう夫とは会わないだろう。

それは、マリと話して感じたことと、さっき郵便受けの写真を撮ったときに確信した。

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