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ノベルも読みやすくて( ・∀・)イイ!!続き気になる!!
第2話「女の子のぬくもり」
ゴミ袋の上に、太くてラインの入ったしっぽと身体を丸めたリスがちょこんと乗っている。
なんでリス?
「リアルなぬいぐるみ……だよな?」
実物を見たことある俺が一瞬本物だと思うくらい、よくできたぬいぐるみだ。
「……」
今、寝返り打った。
よく見ると――身体が震えて、すごく苦しそうだ。
俺は手を伸ばし、そのリスを両手で拾い上げる。
抵抗はなく、震えながら俺の手の上に収まったそれには――確かなぬくもりがある。
急いで部屋に向かって走った。
それしか、俺の中には選択肢がなかった。
その後同じクラスの女子・一之宮(いちのみや)にリスの看病の仕方を教えてもらおうとしたら、ケータイ不携帯のせいで出なかった。
たぶん、犬の散歩に出たまま放置しているんだろう。
ちょっと変わってるけど、根はいいヤツだ。
……俺の妄想内では何度か獣耳やしっぽをつけてもらったこともある。
そこまで思って――俺は後頭部と顔面の痛みを思い出した。
ああそうだ。
どうにか看病して、疲れて寝て――その結果がコレだ。
ハダカ獣耳しっぽの女の子に殴られて頭がグラグラする中、俺は起き上がる。
「あ、あ、だだだだいじょうぶ!?」
「い、一応は」
「ごごご、ごめんねっ……り、リスのしっぽは、抜けやすくて……で、でも! 抜けちゃうと、バランス感覚がなくちゃって! 大変で! 二度と生えないから……ば、バランス感覚がなくなると、こ、コワイんだよ!?」
「……こっちこそすんません」
この世の終わりみたいな顔されたら、殴られた俺が悪いと認めるしかないだろ。
……今なんか変なこと言わなかったか?
「はぁーうっちゃんのしっぽ無事でよかったぁ」
そう思う中、女の子は太いしっぽを抱きしめた。
幸せそうな顔につられて、俺がついしっぽに手を伸ばすと――びくっ、と女の子の肩が震えた。
「しっぽ、抜く?」
「抜かないから、その、少し触らせてほしいな……なんて」
「抜かないんなら、うん、いいよ」
あっさり許可され、ふさふさしっぽを俺に差し出す女の子。
俺はお言葉に甘え、しっぽの手触りを楽しんだ。
ふさふさ。
やわらかくて気持ちいい。
動物の毛ってどうしてこんなに気持ちいいんだ。
「えへへ。喜んでもらえたみたいでよかった」
嬉しそうな声につられて顔を上げた俺は――固まる。
「っ」
目の前に――白い肌と同じ、白い膨らみ。
先端のピンクが白い肌と絶妙なバランス。
片手で全部を隠すことは絶対できない大きさ。
視覚だけでやわらかさと弾力の良さを想像させる、丸い形。
手が、そっちに伸びた。
ふにっ
「あ」
想像通りの、ふわふわでやわらかい感触。
気持ちいい。
しっぽを触ったときとはまた別次元の心地よさ。
「ああ……やわらかい……あったかい」
滑(なめ)らかな手触り。
手に伝わるあたたかさ。
ふわふわしてるのに存在感があって安心して、でも同時に落ち着かなくて。
手が止まらない。
熱いものが身体を巡っていく――
「――気持ちいい?」
俺のセリフじゃ、ない。
今現在俺におっぱいを触られている――獣耳としっぽを持つ女の子の言葉。
彼女の瞳は、澄んでいた。
「!」
――その瞬間、俺は我に返った。
何やってるんだ俺!?
目の前におっぱいがあったらそりゃ触りたくなる――かもしんないけど!
とにかくこれは硬派のやることじゃない――慌てて俺は手を離した。
「どうしたの?」
女の子は、不思議そうに首を傾げる。
俺に対する恐怖とか、軽蔑とか、そういうモノはない。
ここはさっきみたいに殴られるべきとこじゃないのか!?
「もういいの? 気持ち良くなかった?」
「超気持ちよかったです!」
なんで即答したバカか!?
「だったら、もっと触ればいいのに」
この子も何言ってんの!?
痴(ち)女(じょ)かよ!?
そうは見えないけど――
「! うっちゃん、わかったよ」
とか思ってたら、急に目の前の女の子は自分の手を叩いた。
「じゃあ今度は、うっちゃんがやるよ」
やるよ、って何を?
言葉にする前に――抱きつかれた。
さっき感じたあたたかさが、今度は俺の身体を包む。
「うっちゃんを看病してくれたお礼だよ」
耳元で声。
さっきよりさらに近い――超至近距離に、女の子の顔。
大きくてキレイな瞳。
厚めで弾力のありそうな唇。
一瞬で、カッと熱くなった。
なんだよ急に、反則だろこんなの――
「『また』助けてくれて、ありがとう」
心からの感謝の言葉と――純粋であったかい笑顔。
その瞬間――俺の中の熱は小さくなった。
――何かすごく重要なことを忘れているような気がした。
それにまたって何だ?
俺が忘れてるだけで、この子と会ったことがあるのか?
そんなことを思った直後。
「――ひゃぁっ!?」
なんだ今の声――え、俺の声か。
耳にあったかくて、柔らかいものが当たってる――!
「ぅぁ……ちょっ……とっ!」
それが、耳から首筋に這うように下りてくる。
生ぬるい湿った感触に、背筋がぞくりするのに――イヤな感じがしない。
なんだこれ。
くすぐったいような、むずがゆいような、すごくもどかしい。
この感じ、今まで妄想したことあったっけ。
いつも自分が「する」ことしか頭になかったから――こんなの、知るわけねぇ!
頭が痺(しび)れる。
小さくなったはずの熱が、じわじわ大きくなっていく。
このまま、この心地よさに流されたい。
もっと気持ちいいことが、この先待っている気がする。
落ちる。
堕ちる――
???『――おまえも大人になれば、俺の気持ちがわかる日がくる。同じ男なんだからな』
遠い日の記憶が、俺の心臓を握り潰そうとした。
「――やめろ!」
女の子の腕を掴むと、強張る気配に気が付いた。
女の子は固まっている。
そりゃ、いきなり大声出されて腕を掴まれたら怖いよな。
「……ごめん。痛かったか?」
「……」
返事がない。
固まったままだ。
ゆっくり腕と身体を離して、顔を覗き込んでみる。
表情も、目を見開いてびっくりしたまま固まっていた。
「も、もしもーし……」
「はっ」
小さい声で呼びかけると、目をぱちくりさせた。
「き、聞いてたよ! うっちゃん、ちゃんと聞いてた! びっくりして固まっただけで、耳はちゃんと動いてたでしょ?」
そう言って耳――頭についている、獣の耳をぴこぴこ小さく動かした。
――ん?
「耳……」
「うん、うっちゃんの自慢の耳だよ」
「……しっぽ」
「このしっぽもお気に入りだよ!」
ゆらゆら、しっぽが揺れる。
これ、前にも見たこの動き。
――何かすごく重要なことを忘れているような気がする。
昨日、家で俺は何をした?
ゴミ捨て場にリスがいたから拾ってきて、一之宮に電話して。
そうだ、リス!
昨日、苦しそうにしていたあのリスはどこだ!?
辺りを見回す。
テーブルの上にタオルを重ねて寝床を作ったはずなんだが――いない。
そして――代わりにいるのは。
「?」
首を傾げる、ハダカの女の子。
その頭には小さな獣耳と、腰にはしっぽ。
どっちもだぶん、リスのもの。
――本当はもっと早いうちに気づくべきびっくりポイントをスルーして、煩悩とばかり戦っていた自分を俺は心底どうしようもないと思った。
白のワイシャツ。
汚れが目立って面倒だが、それを差し引いても、あの清潔感ある白には価値があると思う。
それを踏まえて。
「――シャツしか着ないのは、狙ってるのか?」
「しっぽがあるからパンツもズボンもはけないんだよー」
洗い立ての、白いワイシャツ。
女の子が着るには大きめで、でも胸辺りはものすごく主張してて、窮屈そう。
しかも、肌が少し透けて見える。
思わぬところで、ハダカ+ワイシャツを拝めた――や、拝める可能性大だと思ったからワイシャツ渡したんだけど。
すると、着ているワイシャツからはみ出てるリコのしっぽが、ピンッと立った。
「あ! 言葉を話すときは名前ないと、困るよね。うっちゃん、リコって言うんだ」
「名前がリコって……『うっちゃん』関係なくね?」
「うっちゃんは、『うち』とか『おら』とか『吾輩』とか『小生』とか『拙者』とか『本官』とかみたいな、一人称のことだよ」
「話の流れでわかるよそんなん。じゃなくて……つか、一人称のチョイスがおかしくねぇか」
「んーと、最初は『うち』って言ってたんだけど、確か『キャラ被りはダメ』って言われんだー」
「なんだそれ。誰がそんなこと」
「ギンギンだよ」
「……何だその卑猥な名前」
「ヒワイ?」
「……なんでもない」
「ギンギンが『うち』を使いたいなら『うち』に『ちゃん』をつけて『うっちゃん』って言いなさいって」
「どうしてそうなった!?」
これ以上のツッコミは疲れるだけな気がしてきたので、話題を変えよう。
「ええっと、俺も名前言ってなかったよな」
「知ってるよ。ミツハルの名前」
「え」
けどリコは、あっさり俺の名前を呼んだ。
「なんで俺の名前」
「だって、ミツハルのお父さんとお母さんが呼んでたからね!」
――お父さんとお母さん。
最後に揃ってたのは、いつだったか。
いや、そんなことは今どうでもいい。
俺は、リコと会った覚えなんてない。
大体、もしこんなかわいい子がうちの親に会っているなら――
身体が、強張った。
息が詰まりそうになる。
――だからその先の想像を、シャットアウトした。
「ミツハル?」
ふと我に返る。
すると視界に、リコのしっぽと耳がしゅんとなるのが見えた。
うむ、獣耳いい。
犬や猫もいいけど、リスもなかなかいい。
「ミツハル、怒ってる?」
「あ、いや、べつに怒ってるわけじゃ」
危ない、妄想に引き篭(こも)りそうになってた。
「でも……イヤだったんでしょ?」
「へ」
「さっき、ミツハルの身体に触ったの」
純粋な瞳が、俺をまっすぐ見つめる。
てか、今その話を出すのか!?
「い、イヤなわけあるか!」
あまりに悲しそうで、申し訳なさそうにしているもんだから、俺は思い留まる間もなく叫んでいた。
「顔つき子どもっぽいクセにカラダはむっちりで、おっぱいなんておっきくてふわふわで触り心地最高! 理想の一つと言って間違いない。しかも触っても嫌がらない上に逆にご奉仕までしてくれようとするんだ。嫌がる理由なんてない!」
「……」
リコが止まった。
ヒかれたのか。
むしろ俺の血の気が引いた。