テラーノベル
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「俺には生涯、幸運の女神がついてる」
チャンスはベルベットのソファへ深く沈み込みながら、磨き上げたフリントロック式ピストルをくるりと回した。
「生まれてこの方、“最後に負けた”ことが一度もねぇんだよ」
いつもの調子だった。
自信過剰。
傲慢。
でも不思議と嫌味にならないのは、その言葉を本人が心底信じ切っているからだ。
部屋の隅では、黒うさぎのスペードが丸くなっている。
長い耳だけをぴくりと動かし、退屈そうに欠伸をした。
チャンスは高級スーツの袖を軽くまくる。
サングラス越しの笑みは、“世界なんて退屈なカジノにすぎない”と言っているみたいだった。
その背中を見ながら、iTrappedは静かに笑う。
――運。
そんなものを、本気で信じているのか。
Banlandsを知る彼にとって、それは冗談にもならなかった。
運営に切り捨てられた地獄。
不正と裏切りが渦巻き、人間が人間を食い潰す場所。
Ellernateも。
Caleb244も。
そして自分も。
“運”なんてものに見放された結果、あの奈落へ落ちた。
だから知っている。
世界は公平じゃない。
あるのはただ――騙す側と、騙される側だけだ。
iTrappedは何も言わない。
代わりに静かに歩み寄る。
黄緑のパンツが揺れ、氷の王冠が薄く光を散らした。
彼はチャンスの背後へ立つと、ソファの背もたれへ両手を置く。
「へぇ」
優しい声だった。
「幸運の女神に愛されてるなんて、まるでおとぎ話の主人公みたいだ」
その声音は甘い。
信じたくなるほど自然で、柔らかい。
iTrappedの指が、チャンスの銀髪へ触れた。
さらり、と梳く。
まるで恋人を慈しむみたいな手つき。
氷の王冠から流れる冷気が、うなじを静かに撫でる。
「ならさ」
耳元で囁く。
「その女神の力、少しくらい僕にも分けてよ」
吐息が近い。
「……僕の願いを叶えるための、“特別な賭け”とかさ」
細い指先が、チャンスの顎を持ち上げた。
距離が縮まる。
唇が触れそうなほど近い。
部屋の空気が、一瞬で熱を持った。
けれど。
iTrappedの内側はどこまでも冷えていた。
(女神でも運命でも、なんでもいい)
(君の“運”が本物なら利用価値がある)
(Banlandsの門を開く鍵になってもらう)
青い瞳が静かに細まる。
(最後に君を支配するのは、その女神じゃない)
(――僕だ)
あと少しで唇が重なる。
その寸前で、iTrappedはわざと止まった。
甘い。
あまりにも甘い焦らし方。
だがチャンスには分かっている。
全部、演技だ。
#bl注意
ゆ
3,523
#1x1x1x1
ゆ
437
30
12
この空気も。
この距離感も。
触れ方も、声色も。
全部、自分を狂わせるための“イカサマ”。
チャンスはサングラスの奥で目を細めた。
普通なら腹が立つ。
利用されていると気づけば、人は怒る。
なのに――心臓は笑うみたいに脈打っていた。
退屈じゃない。
危険だ。
だから最高だった。
「いいぜ、ペテン師」
チャンスは低く笑う。
ソファへピストルを放り投げ、そのままiTrappedのシャツの襟を掴んだ。
強引に引き寄せる。
「俺の“運”が勝つか」
鼻先が触れそうな距離。
「あんたの嘘が俺をハメるか――」
唇が重なる。
甘いキスだった。
酔うほど柔らかく、熱を帯びているのに、互いの胸の内だけは決して混ざらない。
片方は利用するために。
片方は騙されるスリルを味わうために。
まるでルーレットの玉みたいに、危うく回り続ける関係。
そのキスは愛情じゃない。
冷酷な騙し合いの、ただの開始合図だった。
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