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「あとは任せた」

一言声をかけ、倒れている男性と女性のもとへ向かう。


私も行かなきゃ、月城さんの後を追った。


「大丈夫か?」

月城さんが男性に声をかける。


隣では、安心したのか女性が泣いている。


「大丈夫です……」

殴られた顔面は腫れていたが、意識はあるようだった。


「ちょっと見せてください。私、薬師なんです」


「小夜?」


「月城さん、この方を起こしてくれませんか?これじゃあ、傷がよく見えなくて」


「わかった」


二人で男性を起こし、座らせた。


「いててててて」


「顔以外に殴られたところはありますか?」


「いや、ないけど」


他に外傷がないか確認をする。

頭を打っていないかどうか、転倒をして骨は折れていないだろうか。


「痛い痛い、もっと優しく触ってくれよ」


「すみません、ちょっと我慢してください」

触診をしたが、大丈夫そうだった。


「月城さん、この方たちはこの後どうなるんですか?」


「医者の診察後、聴取だ。あの男たちの罪を決めるために、聴き取りがある」


医者が診てくれるなら、問題ないか。

しかし、しばらくの間痛みを伴うだろう。


「お姉さん、お水を持っていませんか?」

この方と付き合っている女性に問いかける。


「お水?水筒に少し持っているけれど」


確か、痛み止めと止血剤は持っていたはず。


自分の懐から薬を取り出し

「お兄さん、口の中を濯いでください。出血しているでしょ?そしたら、これ飲んで下さい。痛み止めと止血剤。しばらくの間はこれで痛みを抑えられます。病院に行ったら、よく診てもらってください」


「ありがとう」


男性は私の指示通りに、口を濯ぎ、一旦口の中の血を洗い、薬を飲んだ。


「隊長、向こうは皆、連行しました」


樋口さんがあの男たちを拘束したと報告に来てくれた。


「わかった。次は怪我人を病院へ運んでくれ」


「了解」


数人がかかりで男性を抱え、馬車へと運ぶ。

その隣を心配そうに女性が見ている。


「では、行って参ります」

一旦、彼らを病院へ送るために馬車は出発した。


私たちは、馬車が見えなくなるまで見送った。


次の瞬間、私は、月城さんの背中に頭をつけ、寄りかかってしまった。


「どうした?」


月城さんは私の予想外の行動に驚いている。


「月城さんが、死んじゃったらどうしようかと思った」


内に秘めていた思いが溢れ出す。


「俺は、そんなに弱そうに見えるのか?」


「ちがっ。でも、いなくなっちゃったらどうしようかと思っ」


月城さんは私を支え、正面を向き、抱きしめてくれた。

「ここにいるだろう」

月城さんの胸の中で、涙が止まらなくなる。


「服が汚れちゃいます」


ふっと笑い

「そんな心配をするな。泣くな。目が腫れてしまうぞ?」

優しく頭を撫でられる。


「小夜も怪我の見立てと処置、見事だったぞ」


泣き止まない私を褒めてくれた。

なぜだろう、すごく落ち着くのだ。

父や母に抱きしめられているのとは違う、安心感を抱く。

前にも同じことがあったような。


そのまま月城さんは、私が泣き止むまで抱きしめてくれた。




「あれーー。なんか隊長が来ているって言うからせっかく応援に来たのに、もういろいろと片付いているし。と思ったら、あの女嫌いの隊長があんなことしてるなんて。面白くなってきたなぁ。あの子が、例の女の子ね」


私たちのことを遠くから見ている影があったことを、この時は知らなかった。






私が落ち着きを取り戻したあと、お昼ご飯を食べて、家に帰ることになった。


「たまには、どうだ?ここの定食が結構好きで、近くに来たら寄るんだ」


「おいしいです」


外食なんて何年振りだろうか、もちろんお金は月城さんが払ってくれた。これも、宿代らしい。

嫌だと言っても、口で負けてしまうことはわかっていた。

なので帰ったら、私なりに月城さんをもてなそうと思った。


あの騒ぎに樋口さんたちが駆けつけてくれたのは、青龍のおかげらしい。

月城さんが合図を送っていたそうだ。

そのため、帰りは違う隊員さんが馬車を用意してくれ、帰宅をした。


もうすぐ夕方になる。


明日は往診の約束をしているため、薬の調合をしていると、月城さんが近くで見ていた。


「何の薬を作っているんだ?」


「今は、熱冷ましです」


薬草を磨り潰しながら私は答える。


「薬の作り方は、父と母から教わりました。あと小さい頃から独学で試していました。それでよく体調を崩して、怒られていましたけど」


昔は、これとこれを合わせたらどんな効果が現れるんだろうなどと考え、両親に秘密で自分の身体で薬の効果を試していた。今も自分の身体で試す時がある。


「自分の身体を使って試していたのか?」


「はい。自分で効果を確かめるのが一番です。誰かに頼むわけにもいかない、おかげでいろんな薬草を試しているうちに、毒に対する耐性がつきました。たまに仕事の依頼でこの中に毒が入っていないか確認をしてほしいっていう変わった依頼もいただきます」


淡々と答える私に月城さんは驚いていた。


「私の身体で少しでも人の役に立てるのであれば、嬉しいんです。本来は薬師ですけどね」


「新しい危険な薬物も出てきている。そんなことやめるんだ」


なぜか月城さんが怒っているように見えた。


「そんな依頼は、本当にたまになので大丈夫です。私もまだ死にたくありませんし」


大丈夫ですよと笑って答える私に


「俺が近くいる間は、そういった依頼は受けないでもらう」


月城さんの表情が真剣だったので

「はい。わかりました」

私もそう答えるしかなかった。


なんだか空気が悪くなってしまった。私が変なことを言ったせいだろう。


どうにかこの空気を変えたい。


私はおもむろに台所へ向かった。

喜んでくれるといいな、そんなことを考えながら月城さんのいる部屋へ戻った。


「月城さん、お茶を淹れてきましたのでどうぞ。私が調合した薬草が入っているので疲労回復の効果があります」


無言だった月城さんは


「ああ、ありがとう。いただくよ」

そう言って飲んでくれた。


「薬草が入っている割には、普通の茶だな。美味い」


「苦みが出ないように薬草は干して、粉々にします。お茶の味を邪魔しないようそんなに入れていませんが、よく効く薬草なので疲れている時には効果覿面です」


温かい飲み物をゆっくり飲むと心が落ち着く。

自分で淹れたのだが、おいしいと感じてしまった。


「先ほどはすまなかった。小夜の仕事を卑下するつもりはないんだ。ただ……」


どう伝えるべきなのか悩んでいるようで、月城さんは珍しく言葉に詰まっていた。


「小夜はこの世に一人しかいないんだ。だから、もう少し自分を大切にしてほしい」

言葉に重みがあった。

「ありがとうございます。私のことを考えてくれて嬉しいです」


自分を大切にしてほしいなんていう言葉、誰にも言われたことなどなかった。

両親が亡くなってから、誰かのために役に立てることがあれば、そう思って生きていた。それが生きがいになっていった、人の役に立つことが自分の価値のようなものになっていったのかもしれない。


しばらく考え込んでいた私の頭をポンと優しく叩き

「夕食の準備でもするか?」

そう言って月城さんは微笑みかけてくれた。

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