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「でもこう言う……男女の機微? みたいなのは私にはまだまだ、難しいです……」

なので空いた時間に葵様に思い切って、杜若様に差し入れは出来ないかと相談した。

今度は私が会いに行きたいと思った。

色々と悩んでいても仕方ない行動あるのみ。それで、きっとなんとかなる。


私はまだ杜若様に『好きなものはなにか』と問われたのに、ちゃんと返事をしていないのが気掛かりだったのだ。


「私の好きなもの。それは、おいなりさんですって言いたい。私も杜若様の好きなものを聞きたいです」


葵様から杜若様は会議が終わったあと、遅めの昼食を取ると教えてもらった。

その時間に間に合うように、こうしておいなりさんを作ったのだった。


今は前世が九尾だとか、バレたくないとか。

本気で私が杜若様を好きになったら、どうしたらいいのだろう、とか──。


そういうことはおいといて。


「杜若様が喜んでくれると嬉しいな」


純粋にそう思うのだった。


※※※


車に乗るのは二回目。

膝の上にお重を包んだ風呂敷をしっかり掴んでいた。

今から向かうのは、ここから少し離れた公会堂と言う場所。

何やら格式高い建物で、お庭が英国式で見事らしい。しかし隣に座る葵様は深くため息をついていた。


「今日の会議はなんと言うか、面倒くさいことを梔子家から押し付けられたと言うか。貴族院様の相手で杜若様も骨が折れるだろうから、環様の差し入れは本当に喜ぶだろうと碧も言ってますね」


とんと、軽くこめかみを叩く葵様は様になっていた。

そしてその仕草はテレパスを使う時の動きだと教えてもらっていた。


「えっと、テレパスという力で属性は木。宇津木様達はどこにいても、お互いに連絡が取れるという力なんですよね。凄く不思議です」


「そうそう。碧がさっき会議の愚痴を僕にこぼして来た。早く終わってくれだって」


「そんなに今日の会議は難しい議題なんですか?」


私の問いに葵様はうぅんと唸り。がたんと車の揺れた後、私を見つめた。


「この帝都にはいろんな人達がいる。それは一枚岩じゃない。政治的思惑とか絡むのは仕方ないことさ。でも今日の会議をする人達は杜若様が、かつてお見合いをした貴族の親達なんだよなぁ」


「お見合い」


私が言葉を繰り返すと、本当にこれは勘違いしないで欲しい。ちゃんと聞いて欲しいと葵様は前置きして喋った。


「杜若様とか五家の人達はその力が有力だから、早期に結婚をしろと政府から推奨されているんです。杜若家は元より帝都の地主。しかも当代の杜若鷹夜様は男の僕から見ても美貌の持ち主だ。あれよあれよという間に高嶺の花みたいなことになって、杜若様にお見合いが殺到したんです」


車の窓から見える景色はすいすいと流れていく。

華麗な洋装姿の人や、立派なビルディングの建物が視界に入るけど、今は葵様の喋る内容が気になり葵様の言葉に耳をじっと傾ける。


「でね。地位ある人達の申し出なんか断る訳にはいかないから、お見合いをしたけれども」


葵様はふぅっとため息をつき背中を座席に預けた。


「けれども?」


「壊滅」


「壊滅とは。杜若様の理想像が高かったとかですか?」


「普通そう思いますよね。でも違うんだ。相手側が貴族のお嬢様達だからこそ、ワガママな人が多くて。妖への知識もあまりないし、成婚に至らなかった。でも、そんなことを大々的に言うと軋轢が生まれる。杜若様はそういった人達を断るのにも一苦労したという裏話です」


「モテる殿方は凄いですね……!」


「本当に。だから、袖にされた相手は『杜若様に弄ばれた』とか『杜若様は夜遊び上手』とか。口が悪い噂を流した」


「それは酷いです」


杜若様が女性慣れしていたと感じたのは、こういったことが起因しているのかと思った。

妖祓いだけではなく、こういった内情もあるなんて本当に大変だなぁと思うばかりである。


ふと、膝の上のお重に視線を落としそうになったところ「そうなんだ環様っ!」と隣で、葵様の力強い声がして、葵様は真剣な眼差しで私を見ていた。


「杜若様は本当にそんな人じゃないんだ。僕と碧。実戦では役に立たない力だと散々笑われてきたのに、杜若様は笑うことなく。素晴らしいと言ってくれて、引き立ててくれた。だからもし、今から行く場所で、変な噂を聞いても杜若様を信じて欲しいんだ」


「葵様……はい。私は杜若様を信じます」


にっこりと微笑むと、葵様は気恥ずかしそうにぱっと視線をそらした。


「っと、私情を挟んでしまい、すみませんでした。でも、傍から見ても杜若様の態度は今までの令嬢達と明らかに違う。環様のことを本当に大事に思っていると思うよ」


「……!」


顔がかっと熱くなると、葵様はニヤリと笑った。


「僕達もワガママ令嬢より環様みたいな、可愛い奥様の方がいい。座学も優秀だし。石蕗さんに物怖じしないし、」


「褒めすぎですっ」


それ以上はと首をぶんぶん振ると、葵様はまた笑うのだった。


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