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高い天井はふんだんにアール・デコ調の木の細工が施されており、中央には大きなシャンデリア。
グリム童話に出てくる白雪姫が、ここでダンスを踊っても違和感はないなと思った。
しかし、ここはダンスホールではない。贅を尽くした会議室だ。
俺は円卓の下座の席より、王族気取りの貴族院の皆様方と相対していた。
そしてこちらの希望を伝え終わると、ねっとりとした視線が俺に集まった。
その中でも上座に位置する者が口をゆっくりと開いた。
「ふむ。鷹夜君が言いたいことも良くわかるとも。民の命は何ものにも代え難い。我々だって大事だ。しかしねぇ、対妖災害費用対策費の増加。新たな避難訓練の新規草案、それに伴う条例の設立、改正。どれもタダで出来ることじゃないんだよ」
分かるかな小僧?
とは言わなかったのは、分厚い唇で喋るのがしんどいからだと思った。
また三度目の「仰る通りです」という言葉が出て来そうだったので、それでは芸がないかと思い。
「正確な認識。ありがとうございます」と言い換えた。
足をそのまま組んでしまいそうになるのを堪えて、口を動かして言葉を続けた。
「時代は進むもの。帝都の人口も増え続けています。いつまでも古いものを基準にしていると、溝が生まれてしまいます。そのミゾが大きくなり、取り返しが出来ない前に、新しいものへと移行する。これは後から見ると、最大限に費用を抑えられる機会だと思っています」
「その機会が今だと?」
「はい。後悔先に立たず。何かあって手遅れになる前に、環境を整えることは大事です」
「わかるよ。それは理想論だ。そうやってすぐに出来たら、どこの国もさぞ住みやすい国になっているだろう」
他国のことは話してないが、と言いたくなる。
「それらを実行するのには、皆様方のお力添えが必要だと申し上げております」
すると上座の左右の席から、揶揄めいた言葉が室内に響いた。
「それが私の娘と結婚した、可愛い婿殿の言葉なら喜んで引き受けたのだがね」
「そうそう。我らと同じ座に来てくれたら、もっと交流が出来たと言うのに」
その言葉に俺の隣に立っている碧隊員の手が硬く、きゅっと握り締められたのを見逃さなかった。
俺にもテレパスが使えたなら「ここからが、本番。もう少し我慢して下さい」と伝えていたことだろう。
上座でごちゃごちゃ言い始めた会話をとりあえず、真剣に聞く素振りをする。これも俺の仕事だと腹を括る。
なにしろ最終的には、俺の提案を受け入れるしかないのだから。
ここで今、私情を挟んでいる者たちも帝都・四百五十万人の中に自分達も入っているのは理解しているだろうし、断ると五家を敵に回す。
さらに俺は皇宮側近護衛の職も兼任している。
いわば俺は帝に直接《《報告》》出来る立場でもある。
それらを知った上で、すんなりと俺の提案を聞くのが嫌で金を出すのを渋り、
散々文句を言って、勿体つけて、気が済んだらやっと「はい」とうなずくまでの工程がこの会議の本質だった。
全く。娘が我儘に育つ理由がよくわかると思いながら、それらしく相槌を打ち時間を過ぎるのを待つ。
そんな耳障りで退屈な会議のさなか。
環の我儘だったら聞いてみたいなと、頭の片隅で思ってしまうのだった。