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「やったぁ~!」
まるでむぅがもう使い魔になることが決まったかのように喜ぶ真奈だったが、ここで水を差すようなことをいうのもかわいそうなので、そこは置いておくことにしよう。
アリスさんも同じことを考えたのか、やはりそれ以上はなにもいわなかった。
僕はそんなアリスさんに、
「それで、面談ってどんな話を?」
え? とアリスさんはこちらに視線を向けて、
「そうね……とくに特別なお話はしていないの。本当にただの雑談よ。最近、真奈ちゃんとはどう? とか、真帆ちゃんや優くん、カケルくんやセロちゃんたちとはうまくやってる? とか、そんなお話をしたくらい。カケルくんから見てどう? むぅちゃんのこと、なにか心配事とかあったりするかしら」
僕は改めてここまでのむぅの言動を思い返した。
一見すればただの靴下猫でしかなく、普段の佇まいや行動も不審な点はなにひとつない。
基本的には真奈と一緒にいつも居て、家のなかではクロから猫や使い魔としてどうあるべきかを学んでいる、そんな印象しか僕にはなかった。
なにか良からぬことを考えている様子もなく、むぅが夢魔として恐れられていた過去があったというその事実を疑ってしまうほどに、この夢魔は安穏とした日々を送っていた。
「とくに、気になることは今のところなにも。本当に普通の猫みたいに、僕らと一緒に暮らしています」
「それなら良かったわ」
アリスさんはにっこり微笑んで、
「もしなにか気になることがあったら、すぐに教えてね」
「はい、ありがとうございます」
僕は軽く頭を下げた。
そこへ、
「みんな、むぅのこと嫌いなの?」
突然真奈が不満そうに口にした。
僕はちょっと驚いたけれど、確かに、周囲のむぅに対する言動からはどこかそんなニュアンスを感じられるかもしれない。
「そんなことはないよ」
僕は真奈の頭を撫でながら、
「嫌いなんてことないよ。ただ、普通とは違う存在だから、心配しているだけだよ」
「う~ん、わかんない。なんでそんなに心配なの?」
そういえば、真奈にはあの話を――かつて魔法使いたちを死に至らしめたことがある事実を、話していないのだったか。
「真奈ちゃんは、意思を持った魔力そのものって、むぅのほかに知らないでしょ?」
アリスさんが、優しく真奈に語り掛ける。
「うん、知らない」
「わたしたちもそうなの。だから、よく調べておきたい。どういう存在なのか知っておきたいのよ」
「……もしかして、解剖実験とかしちゃうの?」
ぎゅっとむぅを抱きしめるその目が、疑わし気にアリスさんに向けられる。
アリスさんは「まさか!」と手を振り、
「そんなことしないわ。安心して、真奈ちゃん」
「……ワタシは別に構わんが?」
むぅは心底興味深そうな口ぶりで、
「ワタシも、ワタシという存在をよく知っておきたいからな」
「だめ! 死んじゃったらどうするの!」
「死ぬ……? ふむ。魔力の集合体たるワタシにも死というものがあるのか、それもまた気になるところではあるが……」
「ダメったらダメ!」
「むむ、しかたあるまい……」
なんだか愉快なやりとりに、僕は思わず笑みをこぼした。
どうやら、なにも心配することはなさそうだ。
確かにむぅはかつて夢魔だった。
けれど、今目の前にいるのは少し哲学的で面倒臭い靴下猫でしかなくて。
夢魔というより、夢猫と呼んだほうがしっくりくるくらいだと僕は思った。
僕はむぅの頭を撫でてから、
「むぅ」
と改めてその名を呼んだ。
「む? なんだ?」
くいっと僕を見つめるむぅに、僕はあの時――真帆ねえの夢のなかでそうしたように、
「……真奈のこと、よろしくね」
むぅはそんな僕の視線をじっと受け止めて、何か言いたげにひげをヒクヒクさせてから、
「なんだ、改まって」
「いや、なんとなく」
「……なんとなく、か。ふむ」
むぅはこくりと頷いて、
「――承知した」
静かに、そう答えたのだった。
「え? なにそれ、どういうこと?」
真奈が不思議そうに僕を見て、
「真奈は猪突猛進なところがあるから、しっかり止めてあげてねってことだよ」
「ちょとつもーしん? どういう意味?」
ねぇ、ねぇ! と僕に縋ってくる可愛い妹と僕を見つめながら、アリスさんはただ優しい微笑みを浮かべていたのだった。