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24 “ The truth about the rumor. 噂の真相 “
私は心密かに、いつ天羽冬也の妻が会社に乗り込んで来るだろうか
と、待っていたのだ。
そう考えていたのは何も私だけではなかっただろうと思う。
なのに、彼の妻は乗り込んでは来なかった。
今回のあのふたりは存外に大人しく振舞い、天羽冬也の妻の逆鱗には
触れなかったのだろうか?
はて?
いやいやいや……あの篠原智子の喰い付きを見ていると、それは
ないだろう。
そんな風に気を揉んでいたら、今回のあの噂が間もなくどこからとも
流れてきたのだった。
こんなデリケートでプライバシーに関わるようなことを流布する
人間、それは誰だ?
大抵は当人たち、もしくは相当身近な人間ということになるのでは
あるまいか。
私がまず怪しんだのは篠原智子だった。
天羽くんの奥さんが突撃凸してこないのに焦れて、噂を流したのでは
ないだろうかと思ったのだ。
しかし、そう想像してしまうと私はますます篠原智子という人間に対して
今まで以上に嫌悪感が増した。
勝手に当たりをつけて……
勝手に篠原さんに嫌悪感を覚えた私に……
後輩の女子社員が耳打ちしてきた。
「松嶋さん、ご存知ですか?
とうとう天羽さんのところの奥さんが家を出て行ったっていう話」
「う、ええまぁなんとなくはだけど……。
ね、あなたその噂誰から聞いたの?」
「それがぁ、篠原さんの同期の仲村くんなんです」
「ほへぇ~、仲村くんですって? それはまた何と……」
後輩にそう言ったきり、私は次の言葉に詰まってしまった。
「ほんとに、何それって感じしますよね。
まさか篠原さんから告白されたとか? とも思いましたけど、まさか
いくら親しいったって恋人でもない相手に自分が付きまとって
親しくしてきた既婚者の家庭の事情なんて話すとは思えませんし。
私は篠原さんのことはさておき、仲村くんのほうにびっくり
でしたよ。
自他ともに認めるおしゃべりな私にいきなりインパクト大な
ゴシップを話すんだもの」
「ちょっ……じゃぁ、社内に広めたのはあなたなの?」
「自覚はないですが、おそらく……」
「怖いなぁ~」
「いや、松嶋さんそんな、怖いなんて……。
私は真砂に話しただけですってばぁ」
「やっぱり、怖いわ……あーたたち。
土屋(真砂)さんって、あなた以上にすごいパワーあるもの。
彼女、あなたから聞いた話を一体何人の人たちに話したのやら。
今や知らない者はいないほどに、この話は広まってるわよぉぉ?」
「噂好きでも何でもない仲村くんが私に話したっていうことは
でも、そういうことなんでしょうね。社内に広めたかったという
強い意志を感じますぅ~」
「すぅ~て、すぅ~て。
でも田坂さん、私に声かけてくれて良かったわ。ありがと」
「良かったぁ~。
私もしかして、松嶋さんからマイナスポイント貰ってしまったかと思って
ましたから」
「こういう話は広めるっていうか、たったひとりに話したとしても
そのひとりがまた別の誰かに話せば内容が内容だし、広まっちゃうわよね。
噂を巻き散らかしたかった人は、きっと今頃ほくそ笑んでいるかも」
私は可愛い後輩の田坂から仲村伍樹の名を聞いて、ピンと閃いてしまった。
女子社員5名、男性社員2名に私は聞いてみた。
この7名から辿っていくと、いつも最後は何故か仲村伍樹へ辿り着いた。
可笑しいくらい私の予想通りだった。
だが、万が一ということもある。
万が一違っていた日には、洒落にならない案件だから意を決して
仲村本人に問い詰めてみることにした。
否定されることも予想しつつ。
◇ ◇ ◇ ◇
「ね、仲村くん……。
篠原さんと天羽くんのことで天羽くんの奥さんが家を出て行った話が
社内に広がってるんだけど、この話を元々持ち出したのはあなたなの?」
「松嶋さん、調べたんですか?」
「少しね」
「そうです、俺が噂を流しました。
ただ、全くの嘘を流したわけでもありませんし、篠原と天羽さんを
懲らしめようとかって思ってしたわけでもありませんけどね」
「ふ~ん、へぇ~、ちょっと吃驚しちゃったわぁ」
「どうしてですか?」
「シラを切るんじゃないかなんて思ってたから」
「はは、そうですか」
「で、そのあなたの話の続きって聞かせてもらえたりするのかしら?」
「ずばり、篠原にもう今までのようなことは止めさせたかった、と
言えば分っていただけますか?」
「……?」
「彼女に爛れた大人の関係を天羽さんと持つ前に阻止
したかったんですよ」
「好きなのね、篠原さんのこと」
「そうですね……そうだと思います。
最初はアイッ何やってんだか! ってくらいの感覚でしかなかったんですけどね。
何でか知りませんけど、時々同期っていうことであっちが食事やお茶に
誘ってくるようになって、まぁほとんどが社食でしたけどね。
同期っていうスタンスで何度も話す機会があって、気が付いたら
放っておけなくなってたって感じですかね」
「へぇ~、篠原さんが羨ましくなってきたわぁ。
あんな事こんな事常識外れのことを散々していても、あなたのように
心配してくれておまけに好意まで寄せてくれる男性がいるんだもの」
『独身アラフィフの私は何か世の不公平感を思い切り浴びたように
感じちゃって阿保らしくなるわぁ~』
「篠原さんは我が身の僥倖に気づいてるのかしら?」