先生格好よかったな~っなんて思いながら家と反対方向に歩く。
例のものを買うと路地裏へと足を急いだ。
にゃぁ~っと鳴く捨て猫に手に乗せた餌を持っていくと幸せそうにそれを食べる。
頭を撫でてやると気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。そこに…
「お、さとみ?久しぶりじゃんw」
と話しかけてきた。俺の大嫌いな声に出会う。
「ぁ、…ぇ、」
言葉を失う。中学時代、いじめられていたから。また何かされる、言われるのではないかと思うとぶるるっ、と身体が大げさに震えたのがわかった。
「な、最近ストレス溜まってんだよ。
発散しても…いいよなァ?!」
殴りかかってくる。ここまで来たら痛くても素直に受け止めるしか俺には出来ない。
ぎゅっと瞼を閉じる。–、がいつまで経ってもその感触は振り返って来ない。
慎重に目を開けると俺の大好きな人が、俺の大嫌いないじめっ子の拳を受け止めていた。
「うちのクラスの子になにするんよ。
さとみのためやったら俺容赦せんで」
なんで格好いい台詞を吐き捨てると、
怖気付いたいじめっ子がそそくさと逃げていく。暫く何が起きたのか分からず頭にハテナを浮かべていると先生が優しい口調で言った。
「くんのおそくなってごめんなぁ。 けがとかされてへんか?」
と優しく腕で包まれる。身体は一回り大きくて、少しゴツい手に身を任せる。
「こっちに用事あってここ来たら、怯えてるさとみがおったんよ。それで、俺心配で心配で」
「そんなの…。」
そんなの…好きになるしかないじゃん。
「ぇ?あ、…ごめんな。抱きしめちゃって」
俺の背中から腕が離れる。やだ。
「やだ。…抱きしめててください」
「ぇ?…」
「怖いから。抱きしめてて…お願い」
「嗚呼、わかった。満足いくまで抱き締めとるよ。だから安心してや?」
耳元で囁かれ俺へと再び動いた手。
「あ、ところでここで何してたん?」
「ぇっ…と〜、実は…捨て猫に毎日餌やってて
すーぱーでかったキャットフードあげてた…」
「…さとみは優しいんやな。」
優しい…¿今まで言われたことが無い。寧ろ虐められるぐらい…。いいの?これで。
「あかんわけないやろ。優しくてダメなんてないんやからな?さとみが何あったんかは知らんけど、俺は少なくとも味方やから」
えすぱーみたいに不安がなくなるように、優しく答えた先生。
顔が、身体が熱くなる。目元から頰へと水が伝い、先生の服が濡れる。
「ごめん…なさい、服汚しちゃって。」
「大丈夫やよ。それよりさとみが心配やし」
どんだけ完璧なんだろう。先生って…。
どん〃好きが、そしてありがとうが溢れてきて
一度溢れた涙は止まる気配がない。
それでもずっと抱き締めていてくれて。
それでまた好きが重なる。
頭を撫でられて、全部が嬉しくて。
それが先生だって関係性も、俺の好きな人だって言うことも忘れて、ただただ甘えていた。
だけど、好きと溢してはいけない。
この関係性が、この幸せな空間が、消えてしまう気さえするから。だから言えない。
いつか卒業して、…先生も俺を好きだと言ってくれるまでは。俺からは言えない。口が裂けたとしても…。
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