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🕶️寿司@やる気ないゾーン
「多分。夢」
うみDD
朝。
カーテンの隙間から差し込む光が、いつもより眩しく見えた。
いや、眩しいというより、冷たい光だった。
頭が重い。熱があるわけじゃない。
ただ、脳の奥だけが水の底に沈んでいるみたいに鈍かった。
夢を見ていた気がする。
酷く嫌な夢だった。
けれど、思い出そうとすると靄がかかったみたいにぼやける。
何か大事なものを忘れている感覚だけが、胸の奥に残っていた。
枕元でスマホが震える。 短い通知音。
俺はぼんやりしたまま手を伸ばした。
『今日学校来る〜?』
その文字を見た瞬間、一瞬だけ呼吸が止まった。
送信者。
うみにゃ
「……は?」
掠れた声が漏れる。
昨日。
昨日、うみにゃは死んだはずだった。
そこまで考えて、俺はゆっくり瞬きをした。
違う。 違う、はずだ。
だってこうして連絡が来ている。
普通に。 いつもみたいに。
昨日の記憶を辿ろうとした瞬間、頭痛が走った。
病院。
白い廊下。
泣き声。
冷たい指先。
そこまでは思い出せる。
なのに、一番大事な部分だけが抜け落ちていた。
うみにゃがいついなくなったのか。
その瞬間だけ、綺麗に消えている。
まるで誰かが切り取ったみたいに。
「……夢」
俺は小さく呟いた。
「多分、夢だろ……」
そうじゃなきゃ困る。
昨日まで普通だった。
昼休みには購買のパンを奪われた。
『一口だけ〜!』
とか言いながら半分以上食われたし
帰り道だって笑っていた。
『また明日ね〜!』
その声が、耳に焼き付いて離れない。
明日が来ない人間の声じゃなかった。
俺は震えた手でこう答えた。
『行く』
送信。
ぽたり、と画面に雫が落ちた。
俺は少し遅れて泣いていたことに気づいた。
「なんで……」
夢だったなら。
悪夢だっただけなら。
こんなに胸が痛いわけがない。
スマホがまた震えた。
『よかった〜』
『待ってる』
その文字を見た瞬間、脳裏に光景が走る。
白い天井。
電子音。
誰かの震える肩。
そして。
『ごめんね』
掠れた声。
「ッ……!」
思い出したくない。
本能がそう叫んでいた。
なのに、記憶は少しずつ滲み出してくる。
病室にいた気がする。
誰かが泣いていた。
うみにゃの手は冷たかった。
でも。
“最後”だけが思い出せない。
学校へ向かう道は、いつも通りだった。
信号も。
コンビニも。
騒がしい学生達も。
世界は何も変わっていない。
俺だけが、現実から置いていかれているみたいだった。
教室の扉を開ける。
「DDおはよ〜!」
その声に、心臓が止まりそうになる。
うみにゃがいた。
いつも通り笑っている。
「……うみにゃ」
「なにその顔〜!寝不足?」
普通だった。
昨日死んだ人間には見えない。
周りのクラスメイトも普通に話している。
誰も泣いていない。
誰も悲しんでいない。
まるで昨日なんて存在しなかったみたいだった。
視線だけがうみにゃを追ってしまう。
笑っている。
友達と話している。
生きている。
なのに、違和感が消えない。
ー昼休みー
「DD〜」
うみにゃが隣の席に座る。
「パンちょーだい」
「……無理」
「えぇ〜」
いつも通りの会話。
なのに、
「DDのケチ〜」
笑う。
その瞬間。
また記憶がフラッシュする。
白い病室。
苦しそうな呼吸。
細い指。
『ごめんね』
その声。
俺は反射的にうみにゃの手首を掴んでいた。
「︎︎…?」
うみにゃが目を丸くする。
「DD?」
温かい。
ちゃんと人の体温だった。
俺自信が冷たいんじゃないかと思うほどの体温。
俺は掴む力を強めた。
いなくならないように。
消えないように。
うみにゃは困ったように笑った。
「なに〜?今日ほんと変」
「……お前さ」
「ん?」
「昨日、どこいた」
「昨日?」
うみにゃは少し考えてから笑う。
「家だけど?」
その瞬間、俺の背筋が冷える。
違う。
昨日、自分は確かに病院にいた。
白い廊下を走った。
泣き声を聞いた。
冷たい手を握った。
なのに。
誰の記憶なんだ、それは。
「DD?」
うみにゃの声が遠く聞こえる。
頭が痛い。
視界が揺れる。
思い出したくない。
でも、忘れちゃいけない気がした。
脳裏に、最後の光景が滲む。
白いベッド。
弱々しく笑ううみにゃ。
震える声。
『また明日ね〜』
…あぁ、そうか。
あれは別れの言葉。
“明日”なんて、本当は来なかったんだ。
俺が今”そっち”にいるから。
コメント
2件
これ見たら1人10000回はいいねな(ha?) 兄ちゃんの見てる人多分私より年下でしょ。だから大丈夫(謎理論) By.えいとの妹(小6)