テラーノベル
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襲撃してきた魔族たちを退けた俺たちは、村の領主・エロモンド子爵の案内で、今夜の宿となる屋敷へ向かった。
屋敷は二階建てで、田舎の村には不釣り合いなほど立派な造りをしている。門構えも煉瓦の石畳もきれいに整っており、芝も手入れされていた。
「立派な屋敷だな。新築か?」
「はい。イヤミル様にご支援いただいておりますので」
「支援? あの損得勘定以外で動かない兄上が、田舎の村を?」
「え、えぇ……。イヤミル様は当村のワインを大変気に入っておりまして。愛飲されていると伺っております」
「兄上がワインの味なんかわかるわけがない。”酒も飲めないとなめられるから”って理由で、飲んでるだけだと思うぞ」
「そんな、まさか」
「試しに格式高いワインと、安物のワインを並べて利き酒をやらせてみるといい。多分安物のほうが、新鮮で美味いとか言い出すぞ」
「は、はは……」
エロモンドは引きつった笑みを浮かべて、会話を流す。
「それでは騎士様達は一階で、王子と奥方は二階でよろしいでしょうか?」
「うん、それでお願い」
「今夜7時頃、夕食をお持ちいたします。何もない村ですが、どうかごゆっくりお休みを」
階段をのぼり、俺はママ上たちと二階の個室へ。
部屋はキングサイズのベッドと上質なデスクが置かれ、カーテンや絨毯も落ち着いた色合いの厚手の品が揃っている。重厚な調度品のひとつひとつから、ただの田舎貴族の領地ではないことが伝わってくる。きっと貴族や王族を迎え入れ慣れているのだろう。
「ベッドで寝られるのはありがたいわねえ」
「ほんと、馬車でガッタンガッタンされて腰が砕けそうだったぜ」
ママ上とヨハンナがぽふんとベッドに身を投げる。スプリングが軋む音とともに、デカパイが弾む。
「みんなで寝ると狭いかもね」
「サキュバスちゃんが犬になって寝れば、いけるだろ」
「そうそう、絡み合えば意外といけるものよ」
ママ上たちは添い寝に慣れているが、フリーデはベッドの端に立ったまま、躊躇していた。
「さすがに私は布団を借りて下で寝ます」
「遠慮しなくていいよ」
「い、いえ、ですが物理的に、詰めて寝るのは……」
「じゃあ、俺の上にでも乗っかって寝れば問題ない」
「そ、そんな不敬なことできません。それに私は王子の騎士であって……」
「その体で余を癒すのも騎士の役目だ。ここで休むのだ」
「は、はい……ご命令とあらば」
顔を真っ赤にしながらも、フリーデは鎧を外し、慎重にベッドへと腰を下ろす。
美女三人(と黒犬一匹)。う~む理想のハーレム。今すぐベッドにダイブしたいが――その瞬間、不意に何かの視線を感じて窓の方へ顔を向けた。
日が沈み、村は仄暗い夕闇に包まれ始めている。
屋敷の外では、村人たちがデーモン達に壊された瓦礫の片付けをしていた。
だが彼らは、作業の合間に顔を上げ、こちらの窓を見上げている。
敵意というほどではない。
かといって、魔族を追い払ったことに対する感謝の眼差しでもない。
あれは、監視の目だ。
よそ者が余計なことをしないか、じっと観察するような、冷ややかさを帯びた視線。
「…………」
「どうしたのラウルちゃん?」
「いや、なんでもないよ、ママ上」
たった一泊するだけの村なのだ。そこで感じた違和感など、いちいち勘ぐっているほど暇ではない。
そう思って、この違和感を胸の奥に押し込んだ。
◇
その日の夜――。
小さな村とは思えないほど豪勢な夕食を振る舞われ、俺は満腹のまま、キングサイズのベッドに横たわっていた。上質な羽毛布団の感触が心地よく、まるで王都の宮殿にでも泊まっているかのような錯覚すら覚える。
「実に旨味。量も申し分ない」
腹が満たされれば、後は寝るだけ。そう思っていた矢先だった。
部屋の隅で、人型のナハトが落ち着かない様子でグルグルと歩き回ったり、時折窓の外を覗いたりしている。サキュバスのハート型の尻尾もピクピクと揺れていて、明らかに様子がおかしい。
「どうした? トイレか?」
「違うよ。なんかさ、この村を襲ってた魔族……おかしくなかった~?」
ナハトが窓辺から振り返る。
「デーモン種って、魔族の中でも知能高いんだよ? それがさ、わざわざ人間の村まで来てワイン泥棒って変じゃない?」
「んー……俺もちょっと気になってたんだよな」
彼女らが全員ゾルデムの魔族なら、無差別に人間を襲撃しているのも納得できる。だけど、そういう感じでもなかったんだよな。
村人の態度もなんか変だし。田舎のくせに、なぜか金持ってるし。俺は渋い顔をしつつ立ち上がる。
「……事情、聞きに行くかぁ」
「うんうん、そうしよ」
窓の外はすっかり夜の帳が降りているが、まだ村は完全には静まり返っていない。
フリーデに声をかけて一緒に行こうかとも思ったが、彼女は別室で明日の段取りについて他の騎士たちと打ち合わせ中らしく、部屋にいなかった。騎士を置いて単独で行動するのはまた咎められそうなので、ヨハンナを連れて行くことにする。
「ヨハンナ、ちょっと付き合って」
「んあ? どこ行くんだ?」
「ワイン蔵」
「おっ、ちょうど酒飲みたかったとこだ」
「忍び込んで、ワイン盗みに行くわけじゃないよ」
ナハトとヨハンナを連れ、屋敷の廊下を静かに抜けていく。そして玄関を開けようとしたその時、エロモンド子爵が現れた。
「これは王子。こんな夜更けに、どちらへ?」
にこやかな笑み。だが、どこか張り付いたような笑顔。
「ちょっとな、捕まえたデーモンたちに話を聞こうと思って」
そう言うと、エロモンドは大きく首を振る。
「いけません王子、こんな暗闇の中、転倒してお怪我でもしたら大変でございます。お話でしたら、明日でも良いではありませんか」
「いや、そうなんだけど」
「王子の玉のようなお体に傷がついたら大変です」
「悪口?」
「被害妄想でございます。さささ、夜風はお体に触ります。どうぞ暖かい部屋へとお戻り下さい」
俺達はやんわりと部屋へと押し戻されてしまう。
その様子に、俺達の不審感はますます強くなる。
「なんか俺達を外に出したくない感じだな」
「おかしいよラウル~」
「あいつらまさか、あたし達の寝込み襲おうってハラか?」
「まさか、帝国騎士を引き連れてるんだ。それはないだろう」
だがよくよく考えると、この村はイヤミル派の領地。エロモンドの悪巧みというより、兄上の企みの気がする。
俺はこっそりと部屋からワイン蔵を確認すると、松明を持った村人が警備に当たっている。
確かそれもエロモンドが、「皆様長旅でお疲れでしょうし、夜間の警備くらい我々がさせて頂きます」と申し出てきたのだ。
「よし、次はバレないようにこっそり行こう」
俺は玄関からではなく、今度は二階の窓から外へと出ることにした。
コメント
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ありんすさん、第91話読みました! なんかこの村、雰囲気が不気味ですね…。ワイン泥棒って言うし、イヤミル兄上が支援してる豪華な屋敷も気になるし、村人の視線が「監視の目」って描写がすごく生々しかったです。ラウルが一度は気にしないように押し込めた違和感を、ナハトが引っかかってさらに掘り下げようとするところ、読んでて「やっぱりそうだよな」って思いました。ベッドのシーンのほのぼの感→夜の探索への切り替えが上手いです。次、どう動くんだろう…楽しみです!
ありんす
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