テラーノベル
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俺たちはエロモンドや村人たちに気付かれぬよう、屋敷の2階の窓から身を乗り出した。夜の闇に紛れ、屋根を伝って静かに外へと降りる。
月明かりの下、ナハト、ヨハンナと共に身を屈め、低姿勢のまま村の物陰を縫ってワイン蔵を目指す。が、思った以上に警備が厳重だ。
村人たちは松明を掲げ、あちこちを巡回している。中には弓を持った者や、三叉槍のような農具を構えた連中までいる。
「なんかワイン蔵の警備というより、俺達がワイン蔵に近づかないように警備している感があるな」
「別にバレたっていいんだろ? 悪いことしてるわけじゃないんだしよ」
「バレたら多分屋敷に連れ戻されると思う」
「ラウル、これ使ったらどう?」
ナハトが指さしたのは、道端に転がる巨大なワイン樽だった。大人が二人、いや、頑張れば三人入れそうなサイズだ。
俺たちは手早く樽の底をくり抜き、中に潜り込んだ。三人一緒に入ったせいで、中はまるで満員電車のごとくギュウギュウだ。
「めちゃくちゃ狭いぞ」
ヨハンナの文句も無理はない。いくら大樽とはいえ三人が入るのは結構厳しい。というか俺がデブなので、サイズをとってしまっている。
「これ被って、見つかりそうになったら樽に擬態しよ」
「まるでダンボール被って敵地に潜入する、ステルスアクションゲーみたいだ」
俺達はコソコソと樽の格好で、薄暗い村を進んでいく。
とてもリガルド帝国王子がやることとは思えない。
「止まれ止まれ。村人だ」
松明を持った村人が見え、俺達はとっさにしゃがむ。
足を引っ込めて完全に樽の形へトランスフォーム。内部はさらに狭くなり、三人の体が否応なく密着する。
「うぅラウル狭いよぉ」
「すまん」
「ってかサキュバスちゃんが、犬かコウモリに変身すれば解決じゃねーの?」
「変身する時、魔力光がでるから無理」
「しっ、村人が来るぞ」
フォークみたいな農具と松明を持った老人は、ゆっくりと樽に近づいてくる。
「こんなところに樽なんかあったか?」
疑念の声を上げた老人は、樽に手をかけ押そうとする。
しかし、三人が入った樽はビクともしない。
「くそっ、中身が入ってるのか。ちゃんと片付けとけよ」
老人は文句を言いつつ、その場を立ち去っていく。
「凄い緊張感だ」
「ラウル、僕のおっぱいくわえながら喋らないで」
「おい、あたしのスカートの中に足突っ込んでくるのやめろ」
「不可抗力だから」
再び立ち上がった俺達は、そそくさとワイン蔵へと向かう。
幸いにもワイン蔵の警備をしている村人は、弓を片手に椅子にもたれ、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。
俺たちはそっと樽を脱ぎ、蔵の外壁にぴたりと張り付く。するとナハトがすっと警備員に近づき、耳元に口を寄せた。
「眠れ〜眠れ~永遠に~起きるな~」
「んごーzzzZZZZ」
彼女が囁くと、寝息がでかくなった気がするな。
「何したんだ?」
「催眠? より深い眠りに落としたから、大きな物音が鳴っても起きないよ」
「なるほど、有能だ」
俺たちは警備員の真横を通り抜け、ワイン蔵の鉄扉に手をかける。だが、当然ながら鍵がかかっていてビクともしない。
「鍵ってエロモンドが持ってんのかな」と俺がぼやくと、ヨハンナが自信満々で前に出る。
「任せろ、この程度の錠前朝飯前だぜ」
ヨハンナが長い赤髪の中から針金を取り出す。
そして、鍵穴に突き刺すとくすぐるようにカチャカチャと動かす。
「さすが海賊だ、ピックングスキルがあるんだな」
俺は有能な仲間に囲まれてるな。
3分後――
「あれー? ここがこうなってるからこうで……」
5分後――
「ん~? おっかしいな、もう開いてるはずなんだが」
「ヨハンナ、もう別の方法考えよう」
「いや、大丈夫だから」
更に5分後――
「はー意味わかんねぇ、こうしたらカチャって開くはずだろ。ビアンとポニーがやったらあっさり開くのに、なんであたしだと開かないんだよ」
どうやら仲間のピッキングを見様見真似でやってるらしい。
「ヨハンナ、さすがに時間が」
「だらっしゃい!!」
鍵が開かないヨハンナは、錠前を強く握りしめると握力で握りつぶした。
壊れた鍵の破片がパラパラと地面に落ちる。
「えぇ……(困惑)」
「よし開いた」
「力技がすぎるだろ……」
【ヨハンナはキーピック(力)を習得した】
知性の欠片もない鍵開けをした後、俺達は音がならないように鉄扉を開けて、ワイン蔵の中へと入っていく。
すると驚くことに、中には誰もいなかった。
「あれ? デーモンたちはいずこへ?」
移動させたなんて話聞いていないが。薄暗い部屋には、古びた樽が並んでいるだけでがらんとしている。
「しっかし酒くせぇな」
ヨハンナの言う通り、ワイン蔵は強いアルコール臭がする。この場にいるだけで酔ってしまいそうだ。蔵が使われなくなっても、こういった匂いは何年も残るようだ。
俺はゲームの経験を活かしながら、蔵を探索する。
すると兄上の石像が壁の隅に設置されていた。
厳しい鎧に身を包み、帝国の栄光を誇るように右腕を掲げ、人差し指を天に突きたてている。
「なんて悪趣味な像なんだ。兄上はこんなイケメンじゃないだろ。いい加減にしろ」
像の顔は妙に小顔で、キリッとした切れ長の目。本人の五割増し美化仕様だ。
しかも腹立たしいことに、股間のあたりが妙に誇張されている。虚栄心ここに極まれりである。
「こんな汚いバナナ、もいでやろうか」
俺は半ば八つ当たり気味に石像の股間を押してみた。
――ガコン。
まさかの手応え。押し込まれたバナナがレバーのように沈む。
直後、床が低く唸るような音を立てて動き出した。
ゴゴゴゴゴ
石床がスライドし、中央にぽっかりと穴が開く。
中から現れたのは、石でできた螺旋階段。地下へと続く隠し通路だった。
「おぉすごいラウル」
「よくそれがスイッチだってわかったな」
ナハトとヨハンナは感心するも、100%偶然である。
地下階段の口から吹き上がる風は冷たく、そして湿っている。何かが長年封印されていたような、そんな空気。
見下ろしても光は一切なく、真っ黒な闇が蠢くように広がっている。
「お化け屋敷みたいで怖ぇな」
ホラー映画だと、ここに入るとほぼ確実に死ぬと思う。
あまりにも不気味な雰囲気に、ヨハンナは1歩2歩と後ずさる。
「うーん、あたしここで待ってるわ」
「騎士がひよるなよ。ここまで来たら、覚悟決めて行くぞ」
コメント
1件
第92話、読ませていただきました! 樽に三人で潜り込んでのステルス潜入、もう可笑しくて可笑しくて🤭 あの狭い中で「♡♡♡くわえながら喋らないで」ってナハトに言われるラウル、完全に修羅場じゃないですか(笑)。しかもヨハンナの力技ピッキングには拍手ものです。「知性の欠片もない鍵開け」ってナレーションが最高でした。そしてまさかの股間スイッチで地下への階段が…🙈 この三人の掛け合いのテンポ、めちゃくちゃ好きです。続きが気になります、地下には何が!?
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宮毘羅
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