テラーノベル
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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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盆休み期間中と言う事もあり、遊園地は多くの人で賑わっていた。入場ゲートには枚丘パーク公認キャラクターの着ぐるみが来園者を出迎え、人々を笑顔にさせている。小さい子供を連れた家族や若いカップル、友達と来ている学生達など、みんな楽しそうだ。
ゲートをくぐって真っ先に目に入るのはメリーゴーラウンド。この辺りは子供向けエリアになっている。
「私、家族以外と遊園地に来るの初めてなんだ! 何から乗ろうか?」
いきなりからテンションの高い彩が、誰にともなく満面の笑顔で聞く。
「最初は景気づけに、ジェットコースターに乗ろうか」
「うん、私もそれが良い!」
和也と明菜もテンション高く応える。
「ごめん、私ジェットコースターだけは苦手で乗れないの。悪いけど三人で乗って貰える?」
彩は申し訳なさそうに、謝った。
「初っ端から一人だけ乗れないのも可哀想だし、手始めは目の前のメリーゴーラウンドに乗ろうか」
拓馬が彩に助け舟を出す。拓馬は彩がジェットコースターに乗れないのを知っていたし、乗り物の中でメリーゴーラウンドが好きなのも知っていた。点数稼ぎするつもりは無かったが、謝る彩を助けたかったのだ。
みんな納得して、目の前の列に並んだ。
来園者が多いと言っても、少子化の影響か今の遊園地はそれ程待ち時間は長くない。拓馬達の親世代では、ジェットコースターに長蛇の列が出来ていたが、今は外資系の国内有数の施設以外でそれは有り得ない。枚丘パークも同様で、一回分待つだけでメリーゴーラウンドに乗る事が出来た。
四人は一人ずつ別れて馬に乗った。外から見ていると地味に見えるが、馬の居るステージは地面から高く、その位置で回転しながら上下するので、想像以上に爽快感がある。
「いやー意外に面白いな!」
和也が降りるなり楽しそうに言う。他の三人も満足した顔をして同意する。
拓馬は何回か彩と二人で遊園地デートをした事があるが、今回のようにグループで来るのは初めてだった。一人カラオケ、一人映画、一人外食など、一人でも楽しめる娯楽は沢山あるが、遊園地に限ってはグループの方が断然楽しいと思った。仲間の笑顔が多ければ多い程、自分の気持ちも相乗的に高まる。彩と二人っきりになるのは帰る直前辺りに考えていたので、それまでは難しい事を考えずに楽しもうと考えた。
「あ、あれなら乗れそう!」
子供向きの乗り物をもう一つ乗った後に、彩が嬉しそうに指さした物は、ビッグドロップと言う名の付いた垂直落下タイプの絶叫マシンだった。
「いや、あれはジェットコースターより怖いぞ」
早くもビッグドロップに向かおうとする彩を、拓馬が止めた。彩とデートで来た時にも同じような事を言っていたが、乗った後のショックが大きくて、しばらくベンチで休憩した事があったのだ。
「大丈夫よ。あれはループとかが無いから、和也君行こう」
彩は拓馬の忠告も聞かずに、和也の手を取りドンドン歩いて行く。
「あっ、そんな事言って……」
「あまり言い過ぎると変に思われるよ」
拓馬は強引に引き戻そうとするが、明菜に止められる。
「彩はあれで酷い目に遭ったんだよ」
拓馬は声を潜めて明菜に説明する。
「そうだろうと思ったけど、今ここで全てを話すつもり?」
「いや、それは……」
「彩はそんなに酷い目に遭ったの?」
「いや、ベンチで少し休んだ程度だけど……」
「じゃあ、自業自得の範囲で良いじゃない」
「そうなんだけど……」
「私も乗りたいから行こう!」
そう言って明菜は拓馬の手を引いて、彩達の後を追う。
ビッグドロップは至ってシンプルな絶叫マシンだ。四席一セットの椅子があるのみで、床は無い。座ると足が宙ぶらりんになり、後は安全バーで体を固定するだけ。特に座席が回転するだの、上下逆さまになるなど一切ないのだが、スーッと五十メートル上まで上昇し、停止して前に出た途端、間髪入れずに垂直落下する。初めて乗ると、足元に何も無くただ落下するだけの事が、これ程怖い物なのかと思い知らされるだろう。
四人は左から和也、彩、明菜、拓馬の順に座った。安全バーが下り、スーッと高速で上昇すると、誰も口をきかなくなる。その反面、落下の瞬間は四人全員が叫び声を上げた。
「あー、思ったより怖かった」
明菜が満足そうに笑顔で言う。
「ごめん、怖すぎてフラフラする……」
「大丈夫か?」
真っ青な顔をした彩を和也が肩を抱きかかえて支える。
「ごめん、ちょっとベンチで休憩するよ。退屈だろうから、二人で回ってきて」
和也は拓馬達にそう言うと、すぐ傍にあったベンチに彩を連れて行く。ベンチに座った彩は和也の肩に頭を乗せて休んでいる。
「せっかくだから、二人で何か乗ろう」
明菜が拓馬の手を引いてベンチから離れる。拓馬も彩達の姿を見ていたく無くて、明菜に従った。
「あれを見たく無かったから止めたのね」
和也達から少し離れた場所に来て、明菜が言う。
「見たく無いって言うか……あれも俺と彩の思い出なんだ。初めての遊園地デートでテンション上がった彩がやらかした失敗。今では笑い話になっていたが、大切な思い出だったんだ」
「ごめんね、一緒に止めれば良かった……」
明菜が悲しそうな顔で下を向く。
「いや、明菜が謝る事じゃない。今更一々こんな事気にしている俺が悪いんだ。二人が仲良いのは毎日見せられているんだから、慣れているはずなのに」
拓馬がフォローしても明菜は下を向いたままだった。
「せっかくだから何か乗ろうか」
「えっ?」
今度は拓馬が明菜の手を引いて歩き出した。驚いた顔をしていた明菜だが、すぐに笑顔になる。二人は3Dレーザーバトルを楽しんでから、彩達と合流した。
その後四人はレストランで昼食を取ったり、園内にあるミニ動物園を見学したり、円形のボートに乗って水浸しになりながら渓谷の激流を下ったりして楽しんだ。
「次はそろそろ遊園地の主役、お化け屋敷に行こうよ」
次の乗り物を相談している時に和也がそう提案する。
「俺はそれで良いけど、二人は大丈夫?」
拓馬が彩と明菜に確認する。
「彩はまた気分が悪くならない?」
明菜が彩に聞く。
「いや、私、お化け屋敷は好きよ」
「じゃあ、良いんじゃない」
明菜の言葉で次はお化け屋敷に行く事となった。
お化け屋敷は四人一組でカートに乗って回るタイプになっている。他の乗り物もそうだが、四人一組の場合は基本的に前後に二人ずつ乗るようになっていて、拓馬と明菜は彩達に前列を譲っていた。
さほど待つ事も無く順番が回ってきて、四人は同じカートに乗り込む。席に座り安全バーが下りると、明菜が拓馬の手を握ってきた。二人は恋人同士と言う事になってはいるが、しょせん疑似なので、特に理由がないと体の接触はしない。今、明菜が拓馬の手を握るのはその理由があるからなのだ。
好きと言っていた割に、仕掛けがある度に、彩は悲鳴を上げて和也に抱きつく。拓馬はこうなる事がわかっていたので、冷静に嫉妬を抑えられた。予想外だったのは明菜の態度で、雰囲気だけで怖いのか、悲鳴は上げないのだがじっと無言で目を瞑り、彩の悲鳴が上がる度に体をビクつかせている。オマケに最初は手を握るだけだったのに、腕を絡ませたり、両手で掴んだり、最終的には拓馬の腕にしがみ付いていた。
「あー楽しかった」
「はあ、疲れた……」
彩と明菜は対照的な顔でお化け屋敷から出て来た。
「次は俺のおすすめの乗り物に乗ろう」
拓馬は明菜の様子を心配して、次はリラックス出来る乗り物を勧めた。
ワールドツアーと名付けられたその乗り物は、水が流れる通路をボートでゆっくりと進み、世界旅行を楽しむ乗り物だ。世界各国の民族衣装を着たパークのキャラクターが紹介する、観光名所やお祭りを見て回るのは気分がリラックス出来る。
「ほら、あのエスキモーのキャラ可愛い」
明菜がキャラを指差して笑う。指差した反対の手は拓馬の手をずっと握っている。
無邪気に笑う明菜の横顔を見て、拓馬の胸はドキッと高鳴る。こんな美少女に手を握られて悪い気がする男などいないだろう。拓馬もこの時は、前に座る彩を忘れて明菜の手を握り返した。