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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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午後六時、朝から散々遊び続けて、楽しかったひと時もあと残り一時間程となった。
「私、一回だけでもジェットコースターに乗りたいな」
明菜がぼそりと呟く。
「あっ、それなら拓馬と行ってきなよ。俺は彩と待っているから」
和也は明菜にそう提案する。
「いや、実は俺もジェットコースターは苦手なんだよ。明菜一人で行かせるのも可哀想だから、和也が一緒に行ってくれないか?」
拓馬は申し訳なさそうに和也に頼む。
「えっ、そうなの? いや、俺は良いけど……」
「行ってあげて。明菜一人で乗るのは可哀想。私は拓馬君とここで待っているから」
話が纏まり、拓馬と彩はジェットコースター近くのベンチで二人を待つ事となった。もちろん明菜が呟いた事も、拓馬がジェットコースターを苦手と言ったのも、作戦の内だった。この二人っきりになった時に拓馬は彩に告白するつもりだったのだ。
「今日は楽しかったな……」
ベンチに座ると拓馬が彩に言う。
声が芝居掛かっていて、拓馬は自分が緊張しているのを感じた。
「本当、こんなに楽しかったの初めてかも」
彩が笑顔で応える。
拓馬は何回もシミュレーションしていたが、実際に彩を前にすると、どう告白すれば良いかわからなくなっていた。
「本当に和也と仲が良いんだな……」
「うん、ありがとう。そう言われると嬉しいよ。でも、拓馬君と明菜のお陰だよ。みんなで居ると本当に毎日が楽しくて、前以上に和也君と仲良くなれた気がするの」
「えっ? そうなのか……」
――皮肉な事だな。俺の存在が彩と和也の仲をさらに強くしていたなんて……。
――もし、好感度を数値化して表せたら、彩と付き合い出した時より今の方が高いと思う。お互いフリーだったら、告白してOKを貰える自信はある。だが、そんな仮定はなんの意味もない。現実に今の彩は和也しか見ていないから。
「もし、四人の出会う順番が違っていたらどうなっていたんだろうな……」
「えっ、どういう事?」
彩がキョトンとした顔で訊ねる。
「例えばさ、俺と彩が最初に出会っていたら、付き合っていたと思う?」
「えーそんなのわかんないよ……」
彩は明らかに戸惑って、困ったような表情を浮かべる。
「ごめんごめん、和也と彩が、余りにも仲が良いので意地悪な事聞いてみたくなったんだよ。ごめん、忘れて」
――俺はいったい何がしたいんだ。はっきりと告白する勇気もなく、こんな遠回しな事を言って、彩を困らせたり……。
「明菜と拓馬君だって仲が良いじゃない。あのクールで大人びた明菜が最近本当に可愛いの。それは、拓馬君に恋しているからよ」
「そうかな……俺にはよくわからないけど……」
拓馬はぎこちない笑顔を浮かべて、そう誤魔化した。
「あっ、照れてるな」
彩は拓馬の気持ちに気付く事無く、笑顔でからかう。その様子から拓馬を異性として意識している感じはまるで無かった。
――彩……大好きだ。ずっとずっと、君と過ごして居たかった……。
――……でも、無理なんだね……。
「あっ、そう言えば、前に俺の事大人っぽいって言ってたよな」
拓馬は告白を諦め、別の話を始めた。
「うん、覚えているよ。と言うか今でも思ってる」
「あれは当然なんだ。実は俺、中身は二十四歳の大人なんだ」
「ええっ、何それ? 意味が良くわからないよ……」
拓馬の言葉を理解出来ずに彩は戸惑う。
「七年後の未来から、意識だけが高校生の体にタイムスリップしてきたんだ」
「タイムスリップ? えーまた冗談言って……」
彩は拓馬の言葉を真に受けず、笑顔で応える。
拓馬は彩に告白するのは諦めた。だが、自分たちが未来で愛し合っていた事を今の彩に知って欲しかった。あの愛し合っていた三年間を無かった事にはしたくなかったのだ。
「で、七年後の拓馬君はなにをしていたの? 明菜とはもう結婚してた?」
冗談と思っていても、彩は興味津々で聞いてくる。
「なにをしてたかって言っても普通のサラリーマンだよ。工業高校だから、高卒で働き出してそのまま今も働いていた。明菜とは結婚していない。そもそも俺の居た世界では明菜と付き合ってはいないんだ。明菜は親しい共通の友人だったんだ」
拓馬は努めて感情を表さずに淡々と話した。
「えー、そうなんだ、残念。共通の友人か……えっ? 共通ってどう言う意味?」
「俺と彩の共通の友人。明菜は彩の親友で俺は彩の紹介で明菜と知り合うんだ」
「えっ? ちょっと話が良く見えないんだけど、私と拓馬君はどういう関係なの?」
「俺と彩は恋人同士。もう三年付き合って、俺がプロポーズするくらいの仲なんだ」
「えー、またまたあ……冗談でもそんな話を明菜に聞かれると怒られるよ」
真顔の拓馬に不安を感じながらも、いきなり笑い出して冗談にしてくれる事を彩は期待していた。
「冗談じゃないんだ……」
「そっ……」
そんなと言おうとして彩は言葉が続かない。否定して冗談にしたいのだが、いくら彩がそうしようとしても拓馬の表情がそれを許さない。
「二十の頃、仕事先で彩と出会ったんだ。俺は彩に一目惚れして、一生懸命に口説き落として付き合う事が出来た。それから俺達は毎週のようにデートして仲良くなっていった……」
「ちょ、ちょっと待って、私と拓馬君が付き合うって、和也君はどうしたの? なぜ、私は和也君と一緒にいないの?」
いつまでも真顔で、冗談と言ってくれない拓馬に、彩は益々不安になっていく。中でも唯一名前の出ていない恋人の事が気になった。
拓馬は彩の問い掛けを聞いて悲しい気持ちになった。彩が自分の話を信じたかどうかはわからない。だが、どちらにせよ、今の彩には自分と付き合っていた話より、和也の事が重要なのだとわかったから。
「和也は高校時代に死んだんだ……」
「もう、そんな事言ってると私が怒るよ。嘘よね? 冗談だって言ってくれたら、許すから」
無理して作った彩の笑顔が引きつる。