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「最近随分と機嫌が良いな」
「そんな事ないよ」
揶揄う様にクラウディウスに言われたレンブラントは、しれっと否定をするが強ち間違ってはいないと思った。
ロミルダの墓参りに行ってから数日が経つ。実はあの日墓参りを終えた後、フレミー家に戻り彼女とお茶をした。短い時間だったが、控えめに言って凄く愉しかった。これまで様々な女性とお茶やデートを経験してきたが、精神的負担が大きく疲労疲弊するばかりで、愉しめた事は一度もない。あくまで彼女は恋愛対象外だが、友人として付き合う分には問題はない筈だ。なので次は友人として正式にお茶に誘う予定だ。今から愉しみで仕方がない。
「ん? あれってティアナ嬢とミハエル王子だよな」
レンブラント達は午前の執務が長引き、少し遅めの昼食を取ろうと中庭へと向かっていたのだが、ヘンリックの声にその場の視線は少し先のガゼボに集まる。
「あのミハエルが、珍しいな」
遠目だが、二人きりで仲良くお茶をしているのが分かった。その光景を見たレンブラントは固まった。
「いやだが、以前彼女を連れて来ていた事を考えると、やはりそう言う事なのか。ミハエルにはまだ婚約者もいないしな」
「そうなんですか、それは残念ですね。私はもしかしたらレンブラントと彼女が……なんて、思っていたのですが」
「でもあれは勘違いだっただろう。結局、彼女の祖母がレンブラントの祖父に会いたがっていただけで、彼女はレンブラントにはまるで興味は無かったしさ」
ティアナの事は簡潔には説明をしたので、彼等はその全貌は知ってはいるのだが……随分と好き勝手言ってくれる。少し……かなり浮かれていたレンブラントだったが、頭から冷や水を浴びせられた気分になった。
確かにヘンリックの言う通りだ。ティアナは別にレンブラントの事を好きでも興味がある訳でもない。自分を付け回していたのもロミルダの為だった訳で、先日墓参りに同行してその帰りにお茶に誘ってくれたのも、彼女からしたらただ単にお礼の気持ちしかなかったのだろう。心の何処かで、もしかしたら……などと思っていた自分が恥ずかしい……。
改めてティアナとミハエルを見た。二人は同い年で学友であり気心も知れている。心なしか、彼女も自分とお茶をしていた時より愉しそうに見えた。しかも相手は第三王子だ。太刀打ちなど出来ない。諦める他ない……。胸が締め付けられる感覚を感じ苦しさを覚える。
「っ……」
そこまで思考を巡らせたレンブラントは、気が付いてしまった。つい先程まで彼女とは友人としてなどと考えていた筈なのに、いつの間にか自分は彼女を……。
「そもそもミハエル王子とはただの学友だろう? だって彼女、もう結婚するらしいし」
「は⁉︎ 結婚⁉︎」
余りの衝撃な発言に思わず叫んでしまった。クラウディウスやテオフィルは、ヘンリックの発言よりレンブラントの様子に驚き目を見張っている。だがそんな事を気にしている場合ではない。
「彼女が結婚って、どう言う事⁉︎」
ヘンリックの両肩を勢いよく掴み揺さぶる。
「お、おい、レンブラント! 落ち着けよ! 揺らすな‼︎」
「ごめん……」
動揺し過ぎて思わず取り乱したが、レンブラントは我に返り謝罪をして手を離した。
「詳しくは知らないが、たまたま知り合いがアルナルディ家の話をしていて、かなり年上の男に嫁がされるから不憫だとか言っていたぞ。確か、三十歳くらい上とか言っていたな」
「男性が年上なのは一般的ですが、三十歳もとは、流石に余り聞きませんね」
「下位の貴族の娘が、家の為に高位の貴族に嫁ぐと言うならば話は分かるが、彼女の生家は侯爵家だしな。そうなると相手は余程有益な人物なのだろうな」
確かにクラウディウスの言う通りだ。ティアナの立場でかなりの有益となると、同格以上でありそれこそ公爵家若くは王族となる。彼女より三十歳も上となると、相手は五十歳近い年齢だ。そんな年で未だに未婚の人物などいただろうか。いや、その年なら初婚ではなく再婚か……? レンブラントは頭を悩ませるが、これといって思い当たる人物がいない。
「……」
「レンブラント、どうした?」
急に黙り込んだレンブラントを心配したクラウディウスに顔を覗き込まれ、目が合った。だがレンブラントは黙ったまま彼を凝視する。
「レンブラント?」
「……クラウディウス、僕暫く休みを貰う。必要最低限は勿論やるから、書類はロートレック家の屋敷に届けさせて」
レンブラントはそれだけ言うと踵を返した。
「おい! レンブラント! 一体どうしたんだよ⁉︎」
「ヘンリック、レンブラントの好きにさせてあげなよ」
背中越しにヘンリックが呼び止める声と、クラウディウスがそれを宥める声が聞こえた。