殿下に恋心などが一切ないとキャロル嬢に言い切られてホッとする反面、目をキラキラさせて応援すると言ってくれたキャロル嬢の気持ちはうれしいが、婚約解消を目指すいま、応援してもらうのはちょっとまずいなと複雑な気持ちだ。
「ありがとうございます。応援してもらえるのはうれしいような、それでいて少し困るんです。これまた詳しくお話しが出来ないんですが、わたしが殿下やキャロル嬢と接触すると良くないことが起きる予定なので、おふたりの関係を見守り、距離を置こうと覚悟を決めいたんですよ。だからお気持ちだけ、いただいておきますね」
キャロル嬢もわたしの話しにキョトンとしている。
「でも、エリアーナ嬢は殿下のことが好きですよね?先ほども自分の気持ちに気づけたとおっしゃっていたし…」
キャロル嬢が可愛い顔に困惑の表情を浮かべている。
「その通りです。キャロル嬢のおかげで殿下への恋心に気づいたのですが、わたしの恋を成就させようとすると、良くないことが起こる可能性があるので、ここだけの話ですがこの気持ちを育てず殿下からも逃げようと思いまして。気にして頂いている、わたしが泣いた件はお恥ずかしながら、わたしと殿下の痴話ゲンカですので、本当にキャロル嬢はお気になさらないでくださいね」
わたしが泣いた理由は、殿下と痴話ゲンカと言ってもおかしくはない。
きっかけこそはキャロル嬢だったけど、殿下からわたしの気持ちを確認されて、そしていままでの殿下のわたしに対する態度について謝罪をされて、派手に好きだと告白しあって、あとは婚約解消をするのしないの応酬だ。
婚約解消の話しは国家機密相当だから、キャロル嬢には話せない。
「さぁ、お互いの気持ちもわかったし、お茶を飲みましょう。早く飲まないと冷めてしまうわ」
やや困惑気味のキャロル嬢にお茶を勧め、テーブルいっぱいのお菓子にようやく手をつけ、他愛もない会話をキャロル嬢と楽しむ。
「急なお誘いにエリアーナ嬢が来てくれると思わなかったので、良い返事をもらった時は本当にびっくりしたけど、思い切ってお誘いして、お話しができて良かったです。わたしはエリアーナ嬢の味方ですから、それを必ず覚えておいてくださいね」
キャロル嬢が眩しい笑顔をわたしに向けられる。
キャロル嬢がわたしの味方…
悪役令嬢になるかも知れないと怯えていたわたしは、その言葉が素直にうれしく安心できた。
まるで暗闇に差し込み光のような言葉だ。
「キャロル嬢、ありがとうございます。とても頼もしいです」
ふたりだけのお茶会は最初に考えていたよりも楽しく和んで、勇気を出してふたりだけで話し合えて良かったと思えた。
目指すはあとは円満な婚約解消のみ。
これができれば、きっと崖から海に飛び込むようなことは間違いなく回避できそうだ。
キャロル嬢は「本当に本当に殿下とは恋愛なんてないからね!」と、しつこいぐらい発言していた。
そして、わたしがキャロル嬢を虐めるようなことは絶対にない。
人は見た目によらずで、あんなに小さくてふわふわのいちご味のマシュマロのような愛くるしいキャロル嬢はもっとブリブリな感じかと思いきや、殿下気持ち悪い発言の時にした歪めた顔やさっぱりした話し方からのギャップが面白く、わたし達は意外にも気が合った。
最後はこれからは友達よ。と言い合って、お茶会は終了したのだから。
アーサシュベルト殿下とは王立図書館の広場に一緒に行って以来、接触をしていない。
いままでも公務以外、接点もあまりなかったのだから、階段事件以降が異常だっただけで、通常に戻っただけだ。
もうこのままずっと会えなくて、殿下への恋心も忘れていければいいのにとさえ、思ってしまう。
明日は週末ということもあって、明日の読書三昧に向けて、王立図書館に寄った。
本の独特の匂いに包まれながら、壁一面に天井まである本棚を見上げる。
出来るなら、図書館に泊まって本三昧の一夜を明かしてみたいものだ。
通路に敷物を敷いて、ランプとサンドイッチとコーヒー。これだけあれば、間違いなく天国である。
「エリアーナ」
本選びに夢中になっていると、わたしをそばで呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとそこにアーサシュベルト殿下が立っていた。
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