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連休明けにはクリニックを開けるため、起きてゆっくりと朝食を取った後に、別荘を後にすることになった──。
扉の鍵を締める際に名残り惜しさが募って、
「……もっといたかったです」
思わず口にすると、
「気に入ってもらえてよかった」
彼はそう応えて、
「いつでも、また来られるので。これからはここは、ふたりの秘密の場所になるのですから」
唇の両端を引き上げ柔らかに微笑んだ。
「ふたりの……」
何気ないその言葉が嬉しくて、顔がほころんでしまう私の手を取って、
「また、ふたりで来ればいいので」
彼は約束をとでも言うように、甲にそっと唇を押し当てた……。
車に乗り込むと、雨が降り出してきた。
「雨、降ってきましたね」
雨粒をなぎ払うワイパーの動きを見つめながら口にすると、
「山の上の天気は変わりやすいので、少し暖房を強めましょうか」
彼が話して、暖房の温度を上げた。車内の暖かさが、眠気を誘う。
うとうとしながらフロントガラスに降りしきる水滴を見ていたら、
やがて雨は、シャーベット状のみぞれ混じりになり、次第に雪へと変わった。
ひらひらと舞い落ちる白い雪に、「あっ…雪…」呟くと、
「雪ですね…」とだけ、彼の声が返った。
ただそれだけの会話だったけれど、互いの心が通じ合えているようにも思えて、じんわりと胸が温まるのを感じた……。