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「先生……?」
一体どっちなんだろうと考えてしまう。まだ時々、彼の本心が読み取れないことがあって、戸惑いを隠せずにいると、
「私の本音が見えなくてと、そう思っているのでしょう?」
彼が見透かしたようにも口にして、私の座るシート脇のレバーをふいに片手で掴んだ。
座席を倒されると感じて、一瞬身を固くすると、覆い被さるような体勢から私の耳の奥にねろりと舌を差し入れて、
「悪戯しかしませんよ。この程度のね」
熱を孕む吐息とともに、低く艶めいた声を吹き込んだ。
「……ひぁっ」
思わず声が漏れると、耳の縁を舌の先でつぅーっと舐め上げて、
「この先は、いつでもできますからね」
その先は何もすることもなく、私の背中をふっと抱き寄せた。
「あなたが好きすぎて、時折りブレーキが効かなくなるのです。許してくれますか?」
そんな風にも言われては、頷くしかないこともあったけれど、
「私も好きすぎるから、あなたには振り回されるばっかりで……」
何より彼の本心の在り処が知れたことで、自分も嘘のない想いを伝えて返すと、その胸にぎゅっと抱きついた──。
「よければ、降りてみませんか?」
彼に促されて、「……ここって」と、辺りを見回した。
さっきブレーキの音がしていたけれど、道路脇ではなく何処かの目的の場所に停車したんだろうかと、窓の外へ首を伸ばした。
「あなたが眠っている間に、少し寄り道をしたんです」
彼からそう伝えられて、
「ごめんなさい。私、眠ってしまっていて……」
うなだれて謝ると、
「いいえ」と、首が横に振られた。
「眠っていても構わないのですが、ただせっかく立ち寄ったので、よかったら一緒に景色を見たいと思って」
「どこなんですか?」
どんな場所に連れて来てくれたんだろうと、フロントガラスの向こうをもう一度眺めた。
「以前にも、来たことがあるでしょう?」
言われて、なんとなく見覚えのある景色にも思えつつ、車を降りた。
「あっ、ここって……」
「憶えていてくれましたか?」
訊く彼に、こくりと頷いた。
……そこは、初めてのデートで訪れた、あの"すすきヶ原”だった。
「帰り道がてらに車を回してみました。雪景色が見たくなって」
彼の言葉に、設えられた柵の向こうへ目を移すと──、
降る雪に微かに雪を積もらせた芒《ススキ》の穂が、一面に頭を垂れ揺れていた。
「……綺麗」
風に揺らぐススキの穂に舞い散る白い雪が、儚げに淡く煙るようにも目に映り、前に見た月夜の風景も綺麗だったけれど、雪景色もまた違った幻想的なシーンに感じられた。
「寒いですか?」
尋ねられて、「ううん」と首を振る。
「あなたといれば、寒くはないです」
「私も君といられれば、寒くはない」
口づけを交わすと、外気はとても冷え込んでいるのに、触れ合った唇からじんと仄かに身体があったまっていくようだった……。