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#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
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#心理描写重視
第124話:嵐の夜の寄り添い。シロのゴロゴロ音に世界が救われる
ゴォォォォォォォッ……!! バタンッ、ガタガタガタッ!!
深夜。真夏の限界集落を飲み込む超大型台風は、いよいよその狂気のピークに達しようとしていた。
シロの『絶対防壁』と俺の完璧な養生テープ補強によって物理的な安全は確保されているものの、建物の外から響き渡る自然の咆哮は、人間の根源的な恐怖をこれ以上ないほどに煽り立てていた。
「う、うわぁぁん……っ、おばあちゃん、怖いよぉ……っ!」
「おうち、飛んでいかない……? 食べられちゃわない……?」
居間の隅で、おばあちゃんたちと一緒に避難してきていた近所の小学生の姉弟が、お互いに抱き合ってポロポロと涙をこぼしていた。
先ほどまでハリウッド女優特注の『ゲーミング発電機』が放つ七色のネオン光で気が紛れていたものの、俺が電力消費と視覚刺激を抑えるために『暖炉モード(ゆらぐオレンジ色の光)』に切り替えたことで、再び外の轟音に意識が向いてしまったのだ。
「大丈夫だよ、アキヤさんが守ってくれてるからね……」
おばあちゃんが必死に背中を擦るが、子供たちの震えは止まらない。
大人でさえ恐怖で身がすくむような嵐の夜だ。小さな心には、あまりにも負担が大きすぎる。
「お兄さん……どうしましょう。子供たちが……っ」
ジンバルにセットされたスマホのカメラを管理しながら、小春ちゃんが痛ましそうに顔を歪めた。
俺は需品科としての思考を高速回転させる。
避難所運営において、小児のメンタルケアは最重要課題の一つだ。極限状態での恐怖は深刻なトラウマを生み、中長期的な生存力とコミュニティの維持に甚大な悪影響を及ぼす。
「物理的な安全は保証されていると、いくら論理的に説明しても子供には伝わらない。必要なのは、理屈を越えた『圧倒的な安心感』だ……」
俺が軍用レーションの『極甘ココアパウダー』を溶かそうと立ち上がった、その瞬間だった。
『ミャウ(幼子たちよ、泣くのはおやめなさい)』
部屋の特等席で香箱座りをしていた神獣シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を優しく細めながら、音もなく立ち上がり、震える姉弟のもとへとしなやかに歩み寄った。
「あ……シロ、ちゃん……?」
涙を浮かべた姉弟が顔を上げると、シロは二人の真ん中にスッと入り込み、その純白の美しい毛並みを子供たちの小さな体にピタリと押し付けた。
そして。
「キュゥン!」「コンッ!」
シロの動きに呼応するように、キツネ兄弟のコン吉とコン次郎が小走りで駆け寄り、子供たちの冷えた足元を挟み込むように丸まり、ふかふかの尻尾を毛布代わりにして包み込んだ。
さらに。
『ピピピピッ!』『チチチッ!』
天井の梁で休んでいた『シマエナガフォース』の群れが一斉に舞い降りてくると、子供たちの肩や頭の上にポンポンと止まり、その真っ白で丸い体をこすりつけ始めたのだ。
「え……キツネさん……それに、小鳥さんたちも……?」
嵐の恐怖に凍りついていた子供たちの顔に、微かな驚きと、喜びの色が浮かぶ。
『……ゴロゴロ……グルルルル……』
トドメとばかりに、シロが子供たちの胸元に顔をすり寄せ、極上の『ゴロゴロ音』を響かせ始めた。
シロの喉から発せられるその音は、ただの低周波ではない。
大自然の息吹と、神獣の持つ究極の癒やしパワーが凝縮された『奇跡の波動』だ。
オレンジ色の暖炉のような優しい光に包まれた古民家の居間で、純白の神獣と、黄金のキツネ兄弟と、雪の妖精たちが、小さな子供たちを嵐の恐怖から守るようにピタリと寄り添っている。
「あったかい……。シロちゃん、キツネさん……あったかいよぉ……」
「……もう、怖くない……」
子供たちの瞳から、恐怖の涙がスッと引き、代わりにポカポカとした安堵の笑みが浮かんだ。
そして、シロの極上のゴロゴロ音とモフモフたちの温もりに包まれた姉弟は、ほんの数分でスヤスヤと穏やかな寝息を立て始めたのだ。
「……すごい。あんなに怖がってたのに……」
小春ちゃんが、感動で口元を抑えながらその光景を見つめている。
だが、救われたのはこの限界集落の子供たちだけではなかった。
ジンバルに固定されたiPhone miniのカメラと、ロスレスの超高音質を誇る最強のYAMAHAルーターは、この『尊すぎる奇跡の光景』と『神獣の極上ASMR』を、一切の劣化なく全世界へと配信し続けていたのだ。
現在の同接視聴者数は、深夜にも関わらず驚異の一千万人を突破している。
その中には、台風の直撃ルートに入り、同じように暗闇と暴風の中で不安な夜を過ごしている日本中のリスナーたちが数多く含まれていた。
『ダメだ、涙が出てきた……。俺の住んでるとこも今停電しててガチで怖かったんだけど、この配信見てたら心がすーっと落ち着いた……』
『子供たちを守護する神獣と森の仲間たち。リアル・ファンタジーすぎるだろ……』
『シロ様のゴロゴロ音、イヤホンで聞いてると本当に隣で寄り添ってくれてるみたいだ』
『こんな暴風雨の夜に、世界で一番温かくて平和な場所がここにある』
『主、そしてモフモフたち、本当にありがとう。この配信のおかげで今夜は眠れそうだ』
チャット欄は、台風の恐怖を忘れ去ったリスナーたちからの、深い感謝と感動のコメントで完全に埋め尽くされていた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master! This is the true power of your sanctuary! A light of hope in the darkness!“(主よ! これぞ君の聖域の真の力だ! 暗闇の中の希望の光だ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”I will invest all my assets to protect this ultimate peace!“(この究極の平和を守るためなら、私は全資産を投資しよう!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Oh my God… This scene should be broadcast on all screens worldwide! It’s pure salvation!“(なんてこと……この光景は世界中のすべてのスクリーンで放送されるべきよ! 純粋な救済だわ!)』
世界中のVIPたちもまた、画面越しの圧倒的な癒やしに涙を流し、極彩色のスパチャの雨を降らせていた。
「お兄さん……。シロちゃんたち、日本の……ううん、世界中の人たちの心を救ってくれていますよ……!」
小春ちゃんが、嬉し泣きしながら俺の袖を引く。
「……あぁ。完璧な後方支援(ロジスティクス)だ」
俺は静かに頷くと、自分の定位置であるローデスクの前に戻り、いつものタッパーを開けた。
そして、子供たちが無事に眠りについた平和な空間で、完璧な水加減の『玄米』と『大豆ミートの野菜炒め』を、一切の表情を崩すことなく、ストイックに咀嚼し始めた。
「ちょっ、お兄さん!? 今この世界中が感動の涙に包まれてる最高のタイミングで、なんで真顔で玄米食べ始めるんですか!?」
小春ちゃんが目を丸くしてツッコミを入れるが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。感動で胸がいっぱいになろうと、物理的な胃袋は満たされない。これより朝まで続く不寝番(夜間警備)に向けた、第三次エネルギー充填だ。……それに、俺の『食事』という変わらない日常を見せることで、リスナーたちに安心感を与えることも、高度な心理的支援の一つだ」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面越しの神獣と動物たちの姿に感動され、奇跡の癒やしだと涙を流されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この一千万人が涙してる最強の感動シーンで、まだ言い訳するのかこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・嵐の夜の奇跡編ww』
『さあ、この世界を救った癒やしをどう論破する気だww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、動物たちが慈愛の心で子供たちを慰めているような、童話のような光景ではありません。台風の急激な気圧低下に本能的な危機感を覚えた小動物たちが、集落で最も体温の高い人間(子供)を『熱源』として利用するために密集しているだけです。そしてシロのゴロゴロ音も、低周波の振動で周囲の暴風音を打ち消すための『アクティブノイズキャンセリング機能』を備えた、ただの戦術的マスキング行動に過ぎません」
「そんな機能を持った猫がいるわけないでしょうがぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、防災リュックに入っていた空のペットボトルで、俺の肩に会心のハリセン・ツッコミを見舞った。
「戦術的マスキング行動ってなんですか!! 暴風音を打ち消すためにゴロゴロ鳴く猫がどこにいるんですか!! どう見たってシロちゃんたちが優しい心で子供たちを温めてあげてるんでしょうが!! 素直に『うちの家族は世界一尊い』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのペットボトル・ハリセン炸裂ww』
『アクティブノイズキャンセリング機能付き猫(最新家電かな?)』
『熱源として利用(ただのモフモフのおしくらまんじゅう)』
『適応力バグおじさん、ついに神獣の愛を最新の音響工学と熱力学のせいにするww』
『言い訳が苦しすぎて、感動の涙が引っ込んで腹筋崩壊したわww』
俺の理不尽極まりない音響工学的・熱力学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのペットボトル・ツッコミに、台風の恐怖に震えていた一千万人の視聴者たちは、不安など完全に忘れ去り、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく、屁理屈の多い男ね……)』
シロが呆れたように一つ欠伸をすると、子供たちの胸元で再び心地よいゴロゴロ音を響かせ始めた。
「……まぁ、理由はどうあれ。みんなが安心して眠れるのなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、オレンジ色の光に照らされた平和な居間を見渡した。
外の世界では、まだしばらく狂気のような嵐が吹き荒れるだろう。
だが、元需品科のブレないロジスティクスと、神獣と仲間たちの圧倒的な癒やし、そして何よりこの『バグった日常』がある限り、限界集落の古民家の温もりが奪われることは決してない。
世界一バグっていて、世界一優しい限界集落の絶対防衛戦の夜は、温かい寝息と大爆笑に包まれながら、静かに更けていくのだった。
コメント
1件
え、待って待って待って…!この回ヤバすぎる!!😭💕 シロちゃんのゴロゴロ音で子供たちがスヤスヤ寝ちゃうシーン、尊死するかと思った…! しかも小春ちゃんのペットボトルハリセン炸裂からの「戦術的マスキング行動」ww 感動と笑いが交互に来てもう感情が追いつかないよ! 台風の夜にこれ読めて本当に良かった…癒やされた〜!🌸