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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第125話:台風一過。もっと強固になった「聖域」と絆
チュン、チュンチュン……。
ピピピピッ、チチチッ。
昨夜の狂気が嘘のような、清々しい小鳥たちの囀りが、真夏の限界集落の古民家の朝を告げていた。
俺はゆっくりと目を開け、窓に貼られた養生テープの隙間から差し込む、眩しいほどに澄み切った朝陽に目を細めた。
「……台風一過、か」
観測史上最大級の超大型台風は、夜明け前に十勝地方を完全に抜け、オホーツク海沖で温帯低気圧へと変わった。
俺は静かに立ち上がり、完璧にロックしていた玄関の引き戸を開け放った。
途端に、雨に洗われた土と草の、瑞々しくも力強い大地の匂いが鼻腔をくすぐる。
外の景色は、昨日までとは少し違っていた。
太い木の枝が数本折れ、地面には大量の葉が散乱しているものの、古民家の屋根瓦は一枚たりとも飛んでおらず、チタン装甲仕様の超大型発電機も無傷で鎮座している。
そして何より、集落の畑やビニールハウスも、奇跡的なほどに被害を免れていた。
「お兄さん! おはようございます!」
背後から、小春ちゃんの弾むような声が聞こえた。
振り返ると、避難してきていたおばあちゃんたちや近所の子供たちも、すっかり安心した笑顔で起き出していた。
「アキヤさん……本当に、何から何までありがとうねぇ。あんたのおかげで、誰も怪我一つなく朝を迎えられたよ」
「お兄ちゃん、シロちゃん! 昨日は守ってくれてありがとう!」
子供たちが、足元で尻尾を振っているコン吉やコン次郎、そして縁側で優雅に毛繕いをしているシロに向かって、嬉しそうに駆け寄っていく。
「皆さんが無事で何よりです。送電網も先ほど復旧したようですから、もう家に戻っても大丈夫ですよ」
俺がそう告げると、おばあちゃんたちは何度も頭を下げながら、晴れやかな顔で自分たちの家へと帰っていった。
嵐の夜を乗り越えたことで、この限界集落の人々との間には、以前にも増して強固な『絆』が芽生えていた。
「ふぅ……。これで、オペレーション・オアシスは完全完了ですね」
小春ちゃんが、伸びをしながら嬉しそうに笑う。
「あぁ。完璧な防衛戦だったな。……さて、俺たちもいつもの『日常』を再開するとしよう」
俺はジンバルに固定されたiPhone miniの電源を入れ、再び【日常チャンネル】の配信を開始した。
昨夜、一千万人の同接を叩き出した伝説の配信の余韻は未だ冷めやらず、配信開始の通知が飛んだ瞬間、あっという間に一千万人ものリスナーがチャット欄になだれ込んできた。
『主!!! みんな無事か!!!』
『おはよう!!! 台風一過の青空、最高に綺麗だな!!!』
『昨日はマジで救われたよ! 主の完璧な備えと、モフモフたちの癒やしに感謝!!』
『限界集落の古民家、ガチで無傷で草。どんな耐久値してんだww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Good morning! The sanctuary has survived! Praise the perfect logistics!“(おはよう! 聖域は生き残った! 完璧なロジスティクスを讃えよ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”A peaceful morning after the storm. This is exactly what the world needs.“(嵐の後の平和な朝。これこそが世界が求めているものだ。)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Ahhh! The sunlight illuminating the RGB generator is also beautiful! Master, you are our hero!“(ああ! RGB発電機を照らす太陽の光も美しいわ! 主よ、あなたは私たちのヒーローよ!)』
世界中のリスナーとVIPたちが、俺たちとモフモフたちの無事を我が事のように喜び、画面越しに祝福の嵐を降らせてくれている。
俺が需品科のスキルを駆使して構築したこの『聖域』は、もはやこの限界集落だけのものではない。
一千万人のリスナーたちにとっても、心の拠り所となる『世界で一番温かい帰る場所』として、完全に定着していたのだ。
「……さて。陣地の安全と通信インフラの無事は確認した。これより、指揮官の通常エネルギー補給を開始する」
俺は清々しい朝の空気に包まれた居間で、ローデスクの前に正座した。
そして、昨夜のうちに仕込んでおいた、完璧な炊き加減で湯気を立てる『玄米』と、自家製の『大豆ミートとシイタケの味噌炒め』を、一切の感情を排した顔で口に運び始めた。
大豆の植物性タンパク質と、玄米の豊富なビタミン・ミネラルが、嵐を乗り越えた俺の細胞一つ一つに染み渡っていく。
「お兄さん……! 嵐を乗り越えた感動の朝くらい、ちょっとは笑顔でご飯食べたらどうですか!?」
小春ちゃんが、呆れたような、でもどこか嬉しそうな声でツッコミを入れる。
だが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。いかなる状況下でも日常のルーティンを崩さないことこそが、究極のサバイバルスキルだ。台風が過ぎ去ったからといって、兵站(ロジスティクス)を疎かにしてはならない」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私が昨夜から完璧な避難所を運営し、モフモフたちと共に村の危機を救ったヒーローのように思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『台風一過の朝から絶好調の男!!!』
『主の限界言い訳タイム・完全勝利の朝編ww』
『さあ、この感動の結末をどう論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、私が村の救世主になったわけでも、神獣の奇跡が村を守ったわけでもありません。ただ単に、この古民家が偶然にも『気象庁の定める耐風基準を極限まで満たした特殊な空気力学形状』をしていただけです。そして動物たちは、低気圧による副交感神経の乱れを整えるために、一時的に私の周囲の磁場を利用していただけ。ええ、すべてはただの『偶然重なった物理法則と、生物のホメオスタシス(恒常性)の維持活動』に過ぎません」
「そんな空気力学を計算して建てられた築数十年の古民家があるわけないでしょうがぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、昨日収穫したアスパラガス(束)で、俺の背中に鮮やかなツッコミ・スナイプを見舞った。
「特殊な空気力学形状ってなんですか!! 生物のホメオスタシスってなんですか!! どう見たって、お兄さんの完璧な準備とシロちゃんたちの愛の力でみんなを守り抜いたんでしょうが!! 素直に『俺たち最強の家族だぜ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのアスパラ・スナイプ炸裂ww』
『特殊な空気力学形状(ただのボロ屋)』
『生物のホメオスタシス(ただのモフモフのおしくらまんじゅう)』
『適応力バグおじさん、ついに愛と奇跡を物理法則と生物学のせいにするww』
『朝から言い訳のキレが良すぎて最高だww』
俺の理不尽極まりない流体力学的な限界言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎるアスパラ・ツッコミに、一千万人の視聴者たちは安堵の涙を吹き飛ばし、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく、平和な朝ね)』
シロが縁側で太陽の光をいっぱいに浴びながら、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を気持ちよさそうに細め、コン吉やコン次郎と一緒に丸くなっている。
「……まぁ、理由はどうあれ。今日からの日常も、悪くない」
俺は苦笑いしながら、十勝の青空を見上げた。
激務に潰されて逃げ込んできたこの限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いモフモフたちと、騒がしい女子高生、そして一千万人のリスナーたちに囲まれた、最高の『聖域』になってしまった。
世界一バグっていて、世界一温かい元社畜の最強スローライフは、台風の試練を乗り越え、さらに強固な絆と共に、今日からの新しい日常へと力強く続いていくのだった。
コメント
1件
おはようございます〜!読了です📖 いやもう、台風一過の朝の清々しさがめっちゃ伝わってきました。狂気の夜が嘘みたいな小鳥のさえずりと、澄んだ朝陽…あの緊張からの解放感、一緒に味わいました。古民家が無傷で、畑もビニハウスも無事だったの、アキヤさんの備えあれば憂いなし、その一言。 そして安定の小春ちゃんのアスパラ・スナイプ!「特殊な空気力学形状」とか言っちゃうアキヤさんの限界言い訳と、それに真っ向からツッコむ小春ちゃんのコンボ、もうお腹痛いですw 世界中のリスナーもVIPも祝福してくれて、本当に『聖域』って概念が世界規模で広がってるんだなあって。シロとコン吉たちが縁側で丸くなってる光景、それだけで心が溶けます。 「今日からの日常も、悪くない」——その言葉、じんわりきました。台風が絆をもっと強固にしてくれたって感じがして、最高に温かい気持ちになれました🥀🤍 ゆうきさん、素敵な朝を届けてくれてありがとうございます。