コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
満面の笑顔で問い掛けたガイランゲルの後ろでは、ジグエラも良い微笑で見つめていたが、レイブはこれまでより真剣な表情をより深い物にして独り言の様な声を漏らすのである。
「うーん…… 確かに大袈裟な妄想に聞こえたけどさぁ、癌とか血栓? 臓器不全とかってやけに具体的なんじゃないかなぁ? 若しかして本当の事とかなんじゃあ無いかなぁ? 夢見がちな誰か、それって誰が竜達に伝えたかとかって言い伝えは残っていないのかな? どう、ジグエラとおじさん」
この問いにガイランゲルは長い首を天に向けて真っ直ぐに伸ばし空を見つめて何か記憶を探るような素振りを見せた後、ゆっくりとした声で自信無さげに答えてくれる。
『伝達者はな…… えっと、確かぁー、コディとテーチャ…… だったかな? なあ、ジグエラそう伝えられていたよなぁ?』
うん、怪しいね、うろ覚え丸出しじゃん!
私がそう思っていると、ガイランゲルと同様に天を仰いで必死に記憶の糸を手繰っていたのだろうジグエラがハッキリとした声で言ってくれる。
『ううんニゲル、伝達者の名前はコダイとタツヤ、確かそうだったはずだわ、彼らが竜の里にその話を伝えてくれた、そう言い伝えられて来たのよ! 彼らは他の名前でも様々な伝説に登場していた筈よ、確かぁ…… そう! 最初の黒衣の放浪者とも言われていたのよ、スターゲイザー、星を見つめる者よ、彼らがこの物語を伝えた張本人よ!』
「あっ! ああぁっ! あああああぁぁぁぁぁーっ!!!!」
ジグエラの言葉に大声で叫んで返したのはここまで成り行きを見守りつつ静かにしていたセスカ、フランチェスカであった。
叫んだ後でフルフル震え捲っている彼女の肩に手を添えた旦那バストロは、落ち着かせようと言うのかいつも以上に優しい声で言う。
「急にどうしたんだいセスカ、おおぉ良し良し、恐くない怖くない、恐くないよぉ、さあさあ、落ち着いて俺に話してご覧? 何に驚いちゃったのかなぁ?」
力強く肩を抱きしめられ、体の震えこそ小さくしたフランチェスカであったが、首から上をガチガチフルフル震わせたままでバストロだけでなくこの場にいる一同を見回しながらやや大きめの声で告げた、因みに表情は一切変わらず冷静そのもの、整って美しいままである。
「アタシがここに来た理由なのよ! 来たのよ、来てしまったのよアナタ、北の魔術師を訪ねろって! ここに来る前に突然訪ねて来たっの、塩湖の魔術師バウロと平原の魔術師クラン、それに南の魔術師テムリ、湖沼(こしょう)の魔術師ソラン、それに西の魔術師のアタシ…… 指令が下されたのよ! アタシ達六人で除染作業をしなければいけないってぇ! それでアナタを探して訪れたんだったわ! 指令よ指令っ! 従わなければいけないわぁっ!」
表情を一転させ、怪訝(けげん)な物に変えたバストロはフランチェスカの両肩に両手を置いて静かに聞く。
「指令だと? 確りしろよセスカ…… 俺たち魔術師に命令を発せられるのは直系の師匠達だけじゃないか、俺たちの師匠グフトマは既に身罷(みまか)り、太師匠(たいししょう)や太師伯(たいしはく)、太師叔(たいししゅく)は遥か昔にお亡くなりになっているんだぞ? 師伯や師叔も…… ああ、叔母さんのミランダ、か? 随分耄碌(もうろく)してしまったと聞いているが、ミランダの、彼女の指令、そう言う事なのか、セスカ?」
「スターゲイザー、よ……」(ボソッ)
フランチェスカの小声に首を傾げて聞き返すバストロ。
「ん? なんだって? 大きい声で言ってくれよ、はぁ、誰だってぇ?」
リクエストに答えたフランチェスカは綺麗で丹精な顔に似合わぬ大音量で叫ぶ。
「だからスターゲイザー星見の者の指令よっ!アタシ達魔術師の大元、黒衣の放浪者オリジナル、コダイ様とタツヤ様が来たのっ! アタシに命令したのよっ! 皆でハタンガを除染しなさいってぇっ!」
一つきりの左目を飛び出さんばかりに剥いたバストロは驚きからだろう、暫(しばら)くの間言葉を返す事が出来ないままで固まり続けるのであった。