「…………生理、……血が凄く出てて、……お腹痛い……」
消え入りそうな声で言うと、尊さんは「分かった」と頷いて「保険証は?」と尋ねてくる。
「……お財布に入ってます」
「分かった。病院行ったあと、このままうちに来てもらうから、とりあえず生理用品持ってくぞ。勝手に触るけどすまん」
そう言って、尊さんはテキパキと物入れから使っていない袋を出し、トイレの収納にあるナプキン類を詰めた。
恥ずかしくて堪らないけど、替えがなかったら詰むのでありがたい。けど恥ずかしい。
準備が終わったあと、尊さんは私に背を向けてしゃがんだ。
「おぶされ。自分で歩くよりマシだろ」
「……す、すみません……」
「振動で腹痛くなったら言ってくれ。収まるまで待つから」
「大丈夫です……」
小さな声でやり取りをしたあと、尊さんは自分の鞄と私のバッグ、そして紙袋を持って家を出た。
「……ごめんなさい。重たいですよね」
「馬鹿言うな。こんぐらいで重たいなんて言わねぇよ」
私をおんぶしたまま悠々と歩く尊さんの声が、広い背中越しに伝わってくる。
彼が気を遣ってそっと歩いてくれているのを知ると、その優しさに胸の奥がギュッとなる。
同時に、先日尊さんが言っていた言葉を思い出した。
『俺は朱里を背負って歩くし、子供ができたら抱っこして進む』
あの時はただのたとえだと思っていたけど、実際におんぶされると彼の覚悟が本当に伝わってくる気がする。
「……恥ずかしい事なのに、茶化さないんですね」
エレベーターに乗って外に出たあと、道行く人の視線を感じた私は、尊さんの肩口に顔を埋めて言う。
「悪い。何が恥ずかしい事なのか分からない。茶化す必要があると思えねぇし」
けれどスッパリと言われ、「あ……」と自分の心につけられた傷を思い知った。
「…………昭人に、体調悪い時に生理って言ったら、『そういう事、恥ずかしいし気まずくなるから男の俺に言わないでくれる? 羞恥心ないの? 女失格』って言われたんです。その上、デートを断ったものだから『生理《《様》》なら仕方ないよな』って言われて、…………だから、男性に生理の事を口にできなくなって……」
私が言った事の理由を知った尊さんは、大きな溜め息をつき、ボソッと言った。
「マジであいつクソだな」
小さな声で言った言葉の奥に、昭人への怒りと苛立ちが窺えて、私はギュッと彼の体に回した腕に力を込める。
「それに後日、酔っぱらった時に『朱里と生理って字面が似てるよな。赤いところも同じ』って一人で笑ってました。最低……」
あの時の不快さを思いだしてムスッと言うと、「ガキか」と尊さんが吐き捨てた。
そのあと尊さんはしばらく黙っていたけれど、ゆっくり歩きながら穏やかな声で言った。
「田村のからかいは論外として、頼むから、職場でもプライベートでも、体調が悪かったらすぐに言ってくれ。男の俺には分からないからこそ、本人に不調を申告してほしいんだ。言われないと、朱里の不調に気づかないまま無理させてしまうかもしれない。『生理は病気じゃない』なんて言う人もいるけど、女性が百人いれば百通りの生理痛やPMSがある。他人の〝普通〟に合わせる必要はないし、自分を大切にできるのは自分だけって考えを、頭に叩き込んでほしい」
「…………はい…………」
私は昭人とはまったく違う反応をした尊さんの優しさに、思わず涙ぐんでしまった。
そのあと咳き込み、俯いて彼の顔に咳を掛けないよう努める。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。……っていうか、夫になるんだから看病でも何でもやらせてくれよ。弱ってる朱里も全部見せてくれ。俺の前で強がらなくていいから」
「…………はい」
体調は最悪なのに、尊さんの優しさが身に染みて気分は最高だ。
やがていつもの駐車場についた尊さんは、少し迷ってから尋ねてきた。
「後部座席で横になるか?」
「いえ。縦になってるほうが楽なので」
「分かった」
答えると、尊さんは助手席のドアを開けてからしゃがみ、私をシートに座らせた。
そして荷物を後部座席に置き、運転席に乗ってエンジンを掛ける。
「つらかったら無理に話さなくていいから」
「大丈夫です」
少ししてから尊さんはコンビニに車を止め、「ちょっと待っててくれ」と言って店内に入る。
コメント
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田村は〇ックスする資格無いし、子供を持つ資格も無いね‼️ 〇理現象の臓器は 男もお世話になってるトコだし、アンタ達が出てきた所だわよ?男性諸君ッ‼️ ミコティを見習えッてんだ‼️‼️‼️(💢'ω')
ほんっとにクそだしガきだね…╮(︶﹏︶")╭ 尊さんとは月とスッポン。お月さまもすっぽんにも失礼だわね🤭 朱里ちゃん大丈夫かな🥺
昭人、ホント腹立たしい男だな!比べるのも申し訳ないけれど尊さんはさすが。 世の中尊さんだらけになってくれたらなぁ。 いや、尊さんほどのレベルを求めるのは酷だから半分でもいい、半分でも充分なくらい。