テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「やってくれるわねジョン……」
奴の瞳から急激に光が消えていく。
それは怒り――それまで皮を被っていた悪魔の本性を、これまでに無い位、剥き出しにして俺に向けていたのだ。
だがそれがどうした?
俺は勝利したのだ。
これから始まるは単なるボーナスゲーム。児戯にも等しい、造作もない展開。
次はその指を落とす――そして四股をも切断し、俺へと平伏せさせるのだ。
「フハハハハハ――っ!」
俺は次なる展開を思うと、自然と笑いも止まらなかった――が。
「ウグッ!?」
不意に走る衝撃に声を詰まらせる。それは下腹部から。
「うぐぉおおぉぉぉ――っ!!」
俺は悶絶に絶叫。だが両手足が動かない為、昏倒する事も出来ない。
奴は蹴りあげていたのだ。そのおみ足で俺の睾丸を力の限り。
これは予想外だった。
分かるかい? この言語を絶する苦痛を。
「うがあぁぁぁ――っ!? ゲボァッ!!」
押さえる事も出来ない急所。広がる激痛と共に込み上げてくる吐き気に、俺は胃の中の物全てを吐き出していた。
――この俺の高貴なる胃液が……こんな所で垂れ流しだと!?
「げほっ――げほぉぁ!」
全てを吐き終えたが尚も吐き気は止まらず、睾丸の痛みも治まらない。
これ以上の醜態がこの世に在ってよいのだろうか?
これは悪夢だ。俺の軽はずみな言動が招いた悲劇――
「全く……手間取らせてくれるわ」
悪夢は終わらないのか? 奴は冷たく言い放つと、俺に何かを被せてきた。
「オゴッ――!?」
口元に感じる無機質な鉄の感覚。口が塞がれたのか、声が出せない――と言うより固定された。
「ジョンが大人しくしてれば、こんなの使う必要無かったのにね……」
理不尽極まりない物言いだが、現実は無常。
冗談だろ? これは――
「ァァァァァッ! ァァァァァッ!!」
言語不明瞭な叫びしか出せない。
信じ難い程にナンセンスだが、俺の口に装着されたのは、映画の世界でよくある拷問器具だった。
ほらあれだ。猿轡みたいな鉄のあれ。歯医者で使いそうな口を固定するヤツ。
それによって俺の口は、開いたままガッチリと固定されているのだ。
これでは反撃も不可能――
「さあ! これで遠慮無く安心して続きイクわよぉぉぉ!!」
まさか――ではない。最悪の状況だ。女は機嫌を取り戻したのか、生き生きとした表情で手に持つホッチキスをガチャガチャ咬ませながら、無防備な俺の口内へと近付けてきた。
奴は一欠片の遠慮も無く、オレの舌にホッチキスを挟ませてきた。
そして無理矢理、力任せに綴じようとする。
「ァァァァァ――ッ!!」
咬む度に襲い掛かる舌への激痛。綴じれる訳がないのに、コイツは尚も――
「中々固くて……綴じないわね!」
――当たり前だ!
しかし反撃処か反論すら出来ない。
コイツはダチョウの脳味噌なのだ。出来ない事は馬鹿でも分かるのに、馬鹿の一つ覚え以上に通そうとする。
「もう無理ムリ~」
どれ位そうしていたのか、ようやく現実に気付いて諦めの構え。ホッチキスを床に放り投げた。
やっと終わった――も束の間。
「アレを使うしかないわね……」
諦める気が無い事を平然と言い出した。
「ァァァ! ァァァァァ――ッ!!」
冗談じゃない。何をする気だ?
“アレとは何だアレとはぁっ――”
「ちょっと待っててね。良いのがあるから」
コイツの“良い”とは全てが真逆。
奴は心底嬉しそうに、吐き気のするスキップで此所を後にしていく。
女が出て行って、この間僅か五分余り。
その間に打つべき手は――無い!
この状況で何とかしようと言うのが無理からぬ事。イエスキリストがそうであるように。
しかし俺に不可能は無い。
思考を張り巡らせろ。この窮地は脱する方法は必ずある筈――
「お待たせ~」
“タイムアップ! もう少し時間を――”
意気揚々と戻ってきた女の右手に握られていた“モノ”に、俺は心底震撼していた。
奴のその“有り得ない”思考回路に。