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それは電動ホッチキス打ち機、トリガータイプだった。
柱等にポスター類を打ち付ける為に使うアレだ。
「これなら確実よ。力もいらないし、良かったわね」
何が良いと言うのか。これなら造作もなく、俺の舌にホッチキスが打ち付けられるだろう。
「アァァアァ!!」
『やめろぉ!!』
それだけは絶対阻止。何とか抗おうとするが、口の拘束は梃子の原理の為、力では抗えそうもない。
「それにしても……これって拳銃っぽいわね」
何よりコイツは話を聞いていない。
手に持った電動ホッチキスを、興味津々に縦へ横へと振り回していた。
「威力も有りそう……」
奴はうっとりと呟きながら銃口を横に向け、トリガーを引く。
“バシュゥ”
刹那響き渡る、不快な機械音。
「振動も凄いわぁ……」
あんなモノ打ち込まれた日には――
「アァァアァァァ! ァアァァァアァッ!!」
想像しただけで脂汗が滲み出てくる。俺は必死に身を捩らせた。
考えろ! 俺の頭脳を以てすれば不可能ではない。
この窮地を凌ぐ最善の策――
そうだ! サイコキネシスだ。
超能力で離れた物質を動かす力。今の俺なら出来るに違いない。
俺は精神を集中し、潜在能力を開放させる。
狙うは奴の手に持つ、電動ホッチキスの誤作動及び――破壊。
“――動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け――動いたぁ!!!!!!!”
「――と言う訳で、さあイクわよぉ!」
奴が動いた。銃口を俺の舌に押し付け――
「アァァアァ!?」
『ちょっと待っ――!』
最期に見えたのは、笑みを浮かべながら引き金を引く奴の姿――
“バシュゥ”
「――ァァァァァァァッ!!!!!」
『――ぎゃあぁぁぁっ!!!!!』
舌に鈍い衝撃が走った瞬間、痛覚が意識を敏感に知覚し、全域に煉獄が蝕んでいく。
その燃えるよう熱さと痛みは、この世に決して在ってはならない。
痛みを我慢出来ず、喚こうと足掻くが固定がそれを許さない。
俺はきっと泣いている――余りの惨めさにだ。
「オホホホッ! 見て見てぇ――舌にピアスが見事にはまっているわぁ!!」
見なくても分かる、と言うより見れる訳がないのに、この女はこの惨事にも狂喜乱舞だ。
――まずい! 血が溢れ出してくる。このままでは失血死の前に、喉に詰まらせて窒息死だ。
「――ォアゴァァァッ!!」
早くこの口の拘束具を外してくれ!
「アハハハハ! ブラボーよジョン」
このままでは最悪の事態に陥るであろう事は一目瞭然。馬鹿でも理解出来る事なのに、拍手しながら笑っている場合かコイツは!?
「あぁでもジョンの血が!? 勿体無いわ、このままじゃ――」
ようやく気付いたか間抜けめ――。しかし奴のとった行動は、『拘束具を外す』ではなく、俺の口内にむしゃぶりつく――事だった。
「……あむ――あぁぁ……ジョンの血は本当に美味しいわぁ」
俺の舌から溢れ出る血液を吸飲しながら、悦楽の吐息を漏らすこの吸血鬼め。
やるべき事はそれじゃない――
「……あらあらぁ?」
筈なのに……。
気付かれてしまった。
蠱惑的な奴の滑らかな舌の感触に、俺の愚息はまたしても反応してしまったのだ。
「また大きくなっちゃってジョンったら……。よっぽど好きなのね?」
心外だ。これは俺の意志ではない。
女は左手で上下に煽る――瞬間衝撃が走り、愚息はますます膨張していった。
たったこれだけの事で、思わず絶頂を迎えそうになる。
幾千もの女を屈伏させてきたこの俺が、この程度でだ。
しかし迫りくる快楽とは裏腹に、俺はすぐに気付く。その“最悪”の予兆に――
「そうだわ! ここにもピアスを打ち込んだら、きっと凄い事に!」
予感的中――したくはなかった。
『やめろぉぉぉぉ――!!』
針で刺すのとは訳が違う。ホッチキスだ! しかも尋常じゃない圧力で。
それは下手をすれば――壊死。
『やめてくれぇぁぁぁ!!』
声無き叫びは――
「楽しみねジョン?」
コイツには届かない――響かないと分かってはいてもだ。
俺は力の限り抗う。そして闘う!
「こんなに固い所に打ち込んだら……きっと真っ赤な血が!」
しかし俺の勃起は鎮まらない。
これでは『早くぅ』と暗に認めているものではないか?
「それじゃあ発射オーライ?」
息子にひやりとした銃口が押し付けられた。瞬間――背筋に戦慄が走る。
「ァアァァァアァァ!!!!!!」
腰を退けども押せども、銃口は愚息を捉えて離さない。
「何言っているのか分からないわよ? そう……早く欲しい、ね。なるほどなるほど――」
お前が口を拘束したんだろうがっ!? しかも完全に都合が良いように解釈しやがるし――
「じゃあカウントダウン、いっくわよぉ!」
まっ――まて!?
「ファイブ」
――やめっ!
「フォ~」
それはまるで絶望へのカウントダウン。
「ツゥ~」
しかもカウントが飛んでるし!
「あっ! 間違っちゃった。スリーね、アハハハハ」
絶対にわざとだ。コイツは俺の様子を見て、楽しんでいるだけなのだ。
「ツゥ~を飛ばしてワ~ン」
だがそんな事はどうでもいい。
“――やめてくれ、やめてくれやめてくれやめてくれぇぇぇぇ!!!!!!!!”
「ゼロォ!」
――神よ! タイムストップを!!
「発射ぁ!」
だがその願いも虚しく――
“バシュゥ”
終焉の扉が開いてしまったーー
“ギィヤァァァァァァァ!!”
“アハハハハハ!”
“イタダキマァス”
…