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R × M
side 大森
スタジオに残るのは、なんだかんだいつも同じだ。
「元貴、まだ帰んないの?」
後ろから声がして、振り返る。
「涼ちゃんか……うん、ちょっと歌詞詰まってて」
「へぇ。珍しいね」
そう言いながら
涼ちゃんは当たり前みたいに隣に座る。
距離が近い。
でも、それがもう普通になってる自分がいる。
「どこ詰まってんの」
「んー……なんかさ、全部薄い気がして」
ノートを見下ろしながら呟くと
涼ちゃんは少しだけ覗き込んできた。
肩、触れそう。
「薄いって?」
「ちゃんと書こうとしてるのに、嘘っぽいっていうか」
少し黙る。
言葉にした瞬間、余計に分からなくなる。
でも——
「別にそれでよくない?」
あっさり、そう返された。
「え?」
「そのままのが、元貴っぽいじゃん」
涼ちゃんの指が、ノートの端を軽くなぞる。
無意識っぽい仕草なのに、なんか目で追ってしまう。
「ちゃんとしてる歌よりさ
ちょっとぐちゃってる方が好き」
「……それ褒めてる?」
「めっちゃ褒めてる」
即答。
その顔が、妙に真剣で。
「元貴の声、そういうの似合うし」
——また、それだ。
「……涼ちゃんってさ」
「ん?」
「そういうこと、さらっと言うよね」
視線を上げると、目が合う。
近い。
「だって思ったこと言ってるだけだし」
「いや、それが困るんだけど」
思わず笑うと、涼ちゃんも少しだけ口角を上げた。
静かなスタジオに、軽く鍵盤の音が鳴る。
「ねぇ、歌ってみてよ」
「今?」
「うん。その歌詞で」
軽く弾きながら言われて、断れる空気じゃない。
マイクを手に取って、少し息を整える。
涼ちゃんの音が後ろから支えてくる。
ゆるくて、でもちゃんと芯があって。
気づいたら、さっきより自然に声が出てた。
歌い終わって、マイクを下ろすと、
「ほら、いいじゃん」
すぐ隣で、そう言われる。
「……さっきよりマシかも」
「でしょ!だから言ったじゃん」
涼ちゃんが少し身を乗り出してくる。
距離、近いって。
「元貴のその声さ、僕すごく好き」
「……またそれ」
「なにが」
「そういうの、簡単に言うとこ」
ちょっと視線逸らすと、涼ちゃんは笑った。
「簡単じゃないよ」
そのまま、少しだけ顔が近づく。
逃げるほどじゃない距離。
でも、逃げられない距離。
「ちゃんと好きだから言ってる」
一瞬、呼吸止まった。
「……え」
「声も、歌も、あと——」
そこで少しだけ間を置いて、
「元貴のことも」
って、普通に言う。
心臓がうるさい。
「……それ、どういう意味」
「そのまんまだけど」
軽く首傾げるその顔が、ずるい。
冗談なのか本気なのか分かんない。
でも、
「……僕は、冗談じゃ困るんだけど」
気づいたら、そう言ってた。
涼ちゃんが一瞬だけ目を丸くする。
「ふーん」
「なに」
「元貴、そういう顔すんの珍しいなって」
少しだけ距離が詰まる。
さっきより、近い。
「じゃあさ、試してみる?」
「……なにを」
「元貴が僕のこと、好きかどうか」
指先が、軽く腕に触れる。
逃げない。
「……もう分かってるくせに」
小さくそう言うと、
涼ちゃんは少しだけ笑って、
「うん、分かってる」
そのまま、ぽん、と頭に手を置く。
「かわいいね」
「……やめて」
「やだ」
軽く撫でられて、逃げる理由がなくなる。
「ねぇ、元貴」
「ん?」
「付き合う?」
あまりにも軽い言い方で。
でも、目はちゃんと真剣で。
「……軽い」
「でも嫌じゃないでしょ」
「……うん」
小さく頷くと、
「じゃあ決まり」
って、当たり前みたいに笑った。
その距離のまま、
「これからもその声、僕に聴かせてね」
なんて言うから、
「……当たり前じゃん」
って返すしかなかった。
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