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side 若井
「……いない」
部活前。
いつもなら先に教室にいるはずの元貴がいない。
珍しいな、って思いながら廊下を歩く。
「またサボってんのか」
小さく呟く。
でも、
なんとなく嫌な予感がした。
理由なんてない。
ただの勘。
でも、こういうのは当たる。
廊下の奥。
使われてない空き教室。
普段なら気にも留めない場所。
でも、
「……っ、やめろって」
かすかに聞こえた声で、足が止まった。
(今の声、)
聞き間違いじゃない。
扉の向こうから、声。
それも、
聞き慣れたやつ。
ドア、勢いよく開ける。
「——おい」
中の空気が、一瞬で止まる。
数人の男子。
その中心には——
元貴が居た。
壁際に追い詰められてる。
制服、少し乱れてて、
息も、乱れてる。
で、
何より。
(……泣いてんじゃん)
目元、赤い。
でも、
こっち見た瞬間、
ぐっと顔を逸らした。
「は?誰だよお前」
一人がそう言う。
でも、どうでもいい。
「なにしてんの」
低く言う。
自分でも驚くくらい、声が冷たい。
「別にー?遊んでただけ」
笑いながら言うそいつ。
その横で、
元貴が小さく言う。
「……大丈夫だから」
(大丈夫なわけねえだろ)
ゆっくり中に入る。
距離詰める。
「離れろ」
短く言う。
「は?なんで」
「そいつが嫌がってる」
即答。
「嫌がってねえよな?」
わざとらしく元貴に振る。
その瞬間、
元貴が一瞬だけ詰まる。
「……別に」
小さく言う。
顔、見ないまま。
(……あー、ほんと)
イラつく。
「嘘つくな」
はっきり言う。
全員の前で。
空気が一瞬固まる。
元貴が、びくっとしたの分かった。
「顔見りゃ分かる」
一歩前に出る。
「今すぐ離れろ」
少しの沈黙のあと、
「……チッ」
舌打ち。
「なんだよ、つまんね」
そう言って、ぞろぞろ出ていく。
静かになる教室。
ドアが閉まる音だけが響く。
「……」
数秒。
何も言わない。
「……帰るよ」
そう言って、
元貴の腕を掴む。
びくっと、また震えた。
(……触られんの、嫌だったか、)
一瞬だけ手を緩める。
でも、
完全には離さない。
side 元貴
最悪。
なんで来るんだよ。
よりによって、あのタイミング。
「帰るよ」
手、掴まれる。
強い。
でも、
さっきまでのやつらと違う。
(……分かってる)
分かってるけど、
「……別にいいって」
口が勝手に動く。
「大したことないし」
沈黙。
「……どこが」
低い声。
さっきより、静かで、
でも怖い。
「泣いてんのに」
「……っ」
一気に喉詰まる。
「泣いてないし」
即否定。
顔逸らす。
「じゃあこっち見て」
間髪入れずに言われる。
無理。
見れるわけない。
「……見ない」
絞り出す。
「なんで」
「……」
言えない。
(見たら)
多分、
全部バレる。
side 若井
見ない、って。
その言い方で、余計分かる。
「……ねえ」
少しだけ声落とす。
さっきより、ほんの少しだけ柔らかく。
「無理すんなって」
その一言で、
元貴の肩が小さく揺れた。
「……してないし」
弱い声。
(してるだろ)
「さっきのやつら、いつから」
聞く。
「……別に」
またそれ。
「“別に”じゃ分かんない」
少し強く言う。
「言って。」
沈黙。
「……最近」
やっと出た声。
小さい。
「……ちょっかいかけてくるだけ」
「だけ、ね」
その言葉、繰り返す。
「今日だけじゃないでしょ」
また沈黙。
それで、確信する。
「……なんで言わないの」
「言ったところでどうすんの」
少し強い声。
でも、
震えてる。
「めんどくさいだけだし、」
「めんどくさいで済ませるな」
即、言い返す。
「元貴がどうでもよくても、俺は違う」
その一言で、
空気が止まる。
side 元貴
……なにそれ。
「……なんで」
小さく言う。
「なんで若井がそんなこと言うの」
関係ないだろ。
本来は。
でも、
「関係あるから」
即答。
「……っ、関係ないでしょ、ッ」
「あるに決まってんだろ」
そのまま、
一歩近づいてくる。
「見てんだよ、ずっと」
(……無理)
それ、言うなよ。
「無理してんのも」
「平気なフリしてんのも」
「全部分かる」
「……っ」
目、熱くなる。
「……やめて」
「やめない」
「見て見ぬフリの方が無理」
その一言で、
完全に崩れそうになる。
「……っ、うるさい」
顔逸らす。
でも、
涙、止まらない。
side 若井
(……やっと)
隠すのやめた。
「ほら」
一歩近づく。
「もういいだろ」
手、そっと肩に置く。
今度は、ゆっくり。
逃げないように。
「……っ」
少しだけ抵抗。
でも、
離れない。
「……無理すんなって言ったろ」
小さく言う。
すると、
「……無理しないと無理なんだよ」
初めての本音。
(……ああ、やっぱり)
「じゃあ」
少しだけ間を置く。
「一人で抱えんな」
「……は?」
「俺いるから」
そのまま、
軽く引き寄せる。
強くじゃなくて、
逃げられるくらいの距離で。
でも、
逃げなかった。
side 元貴
……なに、それ。
「……頼んでないし」
言う。
でも、
声、弱い。
「頼まれてないけどやる」
即答。
「勝手にやる」
(……ほんと)
「……うざ」
そう言いながら、
気づいたら、
服、掴んでた。
(……離れたくない)
そんなこと、
絶対言わないけど。
side 若井
掴まれた。
(……はい)
「ねえ」
小さく呼ぶ。
「もう我慢しないで」
「……無理」
「じゃあ半分にして」
「は?」
「半分は俺が持つ」
そのまま、
少しだけ距離詰める。
「だから」
「もう一人で抱えんな」
side 元貴
……ずるい。
そんなこと言われたら、
「……ほんと、ムカつく」
そう言いながら、
少しだけ、
体、預けた。
(……ちょっとだけなら)
いいかもって、
思った。
コメント
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好きすぎます… 絶妙な距離感がたまらないです😍😍
尊...