金曜日、時刻は18:50。
ホテルのラウンジに阿部は居た。
玄関の自動ドアが開き深澤が来たのがわかった。
少し裾の広がったグレーのパンツに、揃いのショート丈のジャケット。中はワイシャツではなくミントグリーンのサマーニットのようだ。オーダーメイドで誂えたものであろう。
カバンには可愛らしいチャームを添え、時計とアクセサリーも色味を揃えてある。
彼の姿は始まったばかりの夜に狙ったように映えていた。
自身が良く見えるポイントを抜かりなく押えているのだろう、とぼんやり眺めていると目が合ったので、ゆるく微笑む。
彼は小走りで近付くと
「お待たせしました。辰哉です。阿部さん、ですよね?」
と挨拶をした。
約束の10分前に着いたが、彼はもうそこにいた。
スッキリとしたタイトスーツに身を包みワイシャツは上まできちんと留められている。胸ポケットのチーフとループタイは深緑で色味を揃えてある。磨き込まれた革靴とシンプルな腕時計も相まって、清潔感と知性を漂わせていた。
近寄り挨拶をする。
「来てくれてありがとう。俺たち気が合うかもね」
どこが?と顔に出てたのだろう。
阿部は近寄り顔を近づけると「緑、似合ってるね」と囁いた。
吐息混じりの低音ボイスに、心臓が跳ねた。
「ここじゃあ何だから、食事でもしようか」
と促されるままエレベーターに乗り着いたのは、ひとつの部屋。
奥にはキングサイズのベッドまである。
すぐにルームサービスで食事とお酒が届く。
「突っ立ってないで、こっち座りなよ」
と声がかかり、ハッと我に返る。
めいっぱいの余所行きの笑顔で「はぁい」と返事をしてソファに並んで座る。
ワインもそれなりに開けたけど、特に深い話はせず、世間話程度で終わる。
食べ終わる頃、阿部はおもむろに席を立つと
「そうだ、今日のお手当て」
と言ってテーブルにぽんと現金を置く。
パッと見でざっと30万はある。
深澤はありがとうと言いかけて踏みとどまる
「これって今日だけの分?」
「違うって言ったら?」
阿部が笑みを浮かべたまま動かなくなるから、深澤も動きを止める
先にギブアップしたのは深澤
「あー!やめやめ!条件教えて。無理ならもう会わない。あの人の最後のお願いだと思ったから来たのに。こういう試すようなことすんだね。何?俺のやり方に文句でもあんの?それともバカにしに来た?」
「…………っははははっ!」
「いや、ごめん。そんな顔するんだ。面白いわ。気に入ったよ、辰哉。そういうとこ」
「なぁ、腹割って話そうぜ。俺もさ、試すとか駆け引きとかめんどくせぇのは好きじゃないんだよ」
コメント
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新キャラ登場。 これが今井さんの得意分野か。
なになになんかおもろい予感✨✨💜💚