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「ってことは、京子ちゃんとは、ひと回り離れてるのか」
「ちょっと年の差がありはしないか?」
二代目と中村が京介へ言った。
二人共、酒のおかげですっかりいい気分になっている。
先程から、きゅうりの浅漬をつまみに、京子の見合い相手について京介へ根掘り葉掘り尋ねていた。
「……まあ、そうなるな」
京介が、不満げに言うと、ぐいっとお猪口を空けた。
「ありゃ、京さんも飲むとわなぁ。久々じゃないかい?」
「二代目?これ、やけ酒ってやつじゃないか?」
「まあねぇ、どこの馬の骨とも知らぬ輩に娘取られるんだ。飲まなきゃやってられねぇわなぁ」
「だよなあ」
二代目と中村は顔を見合わせ笑い合っている。
「み、身元は釣書に書いてある!帝都大学を出て外交官になったのだ!馬の骨とは違う」
京介が、二人の物言いが気に食わぬと、ろれつが回らない状態で叫んでいる。
「いや、岩崎、そういうことじゃなくってさぁ」
「まあ、京さん、もう一杯やんなよ」
二代目も中村も、京介の乱れ具合をどこか楽しんでいた。
「しかし、帝都大学出てるなら、秀才だ。で、なんで二十七になるまで独り身なんだい?」
「そうだな。男爵家の次男なんだろ?許嫁とかいそうだけど?」
二代目と中村は、首を傾げている。
「知るか!」
愚痴りともなんとも言えぬ口ぶりで、京介は再び叫ぶ。
「あー、それ、なんか訳ありなんじゃねえ?」
京太郎が、大根の煮物を盆に乗せてやって来た。
「京太郎!余計なことを言うな!」
京介が、即反応した。
「あ?なんか、それ、どこかで聞いた事があるような?」
「そうそう、中村の兄さん!あるような、ないような!」
二代目と中村は、なぜかニヤけていた。ついでに京太郎も、父京介を見ている。
「ああ、京介さん、昔そう言われてましたものね」
#普通
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徳利を盆に乗せ、月子が現れる。
「お酒足りてますか?」
何食わぬ顔で酒を勧める月子に、二代目も中村も大笑いした。
「父上こそ、ヨーロッパ遊学の時に女作って勘当されたんでしょ?」
言う京太郎の口角は、空々しく上がっている。
「京太郎!」
焦る京介に、
「あー、思い出した。そんなこんなで、家から追い出されてこの家に住むことになったんだよなぁ。何があるかわからねえなぁ」
「そうそう、そんな訳ありの男と月子ちゃんも良く見合いしたなあ」
すかさず、二代目と中村が乗っかった。
「いえ、私も家が決めたことでしたから……」
月子は、盆を中村へ渡しながら、真面目に答える。
「え?母上、気にしてないんですか?!父上の過去」
京太郎が、目を見張る。
「だって、皆知ってることだし、京介さんもちゃんと私に話てくれたから。過去は過去でしょ?」
気にしていたらきりが無いと月子は開き直っていた。
「いやあ、月子ちゃん、太っ腹!」
中村がおどけて掛け声をかける。
「いやいや、ほんとに腹が太いって話で。来月だろ?」
ろれつが回らないながらも、二代目は、どこか月子を心配している。
「と、とにかく!私のことはいいだろう!昔、そう昔の話だ。色々あっただけだ!月子!もう休みなさい!無理をするな!」
「あー!ちょうど良かった!月子様来てください!私じゃ京次郎ちゃん寝かしつけられなくて!」
そこへ、お咲が飛び込んでくる。
「あら、京次郎ちゃん、ぐすってるの?私行くわ」
それじゃあと、月子は京次郎を寝かしつけるために、お咲と共に居間から出て行った。
「さすが母は強しだねえ。もう、月子ちゃんも、多少のことじゃ驚かねぇってことか」
「昔は、こっちが、はらはらしてたのに。どっしり構えてるなぁ」
二代目と中村は、釈をしあいながらニヤけている。
「……ってことはだ。今回も何かあるかもしれねえってことか?」
京太郎だけが考え込んでいた。
「な、何を!京太郎、お前、逐一うるさいぞ」
「うるさいのは、父上でしょうが!さっきから叫んでばかりで!」
「叫んでなどいない!声が大きいだけだ!」
「まあまあ、見合いしてみりゃ、真相もわかるって。訳ありかどうか、京さん、見てきなよ」
二代目が、あっさり言った。
「ですよ。父上。見合い相手しっかり見てこないと!」
「分かっている!」
京太郎に言われ、京介は半ばやけになりつつ、ぐっと酒を流し込んだ。
「いや、なんか、結局、酒盛りしたいだけって言うかさあ」
京太郎が呆れるが、中村は笑いながら、
「まあ、京太郎もそのうちこの酒盛りに参加することになるから」
などと言い、
「おや、そりゃいいや」
と、二代目も呑気に合いの手を出した。
こうして、多少の疑念が動きながらも、見合い当日、日曜日を迎えることになる──。
京介の読み通り、場所は兄の岩崎男爵邸だった。
京介と月子、そして京子が神妙な面持ちで席についている。
テーブルを挟んで相手方、白井男爵家の両親、そして、見合い相手が座っている。
仲人の役目は岩崎男爵夫婦が努め、互いに言葉を交わすように、色々仕向けていた。
しかし、あくまでも家と家との話。
当の本人、特に京子は俯いたまま、口を開けることはなかった。
「……岩崎様は、定期公演の合間でお忙しいことでしょう」
何か繋がなければと、相手方、白井男爵が、京介へ話しかける。
「いえ、それほどでも……」
話は、あっさり終わる。
従来の京介のぶっきらぼうさが、邪魔をしていた。
隣では、月子が落ち着かない。
岩崎男爵夫婦も、弟京介の気の利かなさにがっくりしていた。
「……今回はどのような楽曲を?」
そこへ、見合い相手が口を挟む。
沈黙に耐えられなくなったようだった。
「……白井様は、音楽にご興味が?」
「ああ、白井様ではなく、どうぞ、恒彦《つねひこ》とお呼びください。気負わない方が、お互いのことを知ることができますから」
京介は、前に座る京子の見合い相手を見やった。
思いの外、嫌味のない受け答えをしたからだ。
実直で清潔感溢れる佇まいが感じ取れ、京介は、内心やられたと思う。
「私も、京子さんとお呼びしても構いませんか?」
この、どこまでも紳士的で、好青年ぶりに、月子も男爵夫人の芳子までも、驚きをかくせない。
「じゃあ!二人だけで、お庭でお散歩でも!」
突然、芳子が弾ける。
「義姉上!」
京介は、拒むが、
「ああ!それがいい!二人で話す機会も必要だろう!」
兄の岩崎男爵が押し切った。
さすがに今は言い返す雰囲気ではないと、京介は黙り込み素直に提案を受け入れるしかなかった。
コメント
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第4話、読み終えたよ〜! なんかもう、京介さんの“やけ酒感”がひしひしと伝わってきて笑ったわ。娘の見合いでここまでアツくなる父親、いいよね。月子さんが過去を「過去は過去でしょ」ってサラッと流すところ、めっちゃ大人だなって思った。京太郎のツッコミも絶妙で、家族の空気感が心地いい。ラストの恒彦さん、思ったより好青年でちょっと油断ならん(褒めてる)。次の展開が気になる!