元貴はおれの初恋だった。
初めは、同級生に凄い音楽の才能がある奴が居るって知って、ただ仲良くなりたかっただけだった。
毎朝、元貴の家に迎えに行って一緒に学校に行って、毎日一緒に居るようになって、一緒に音楽をやるようになった。
いつから元貴をそう言う意味で好きになったのかは覚えてないけど、そうなるが当たり前かのようにいつの間にか好きになっていた。
でも、幼いながらもこの恋は普通ではないって事は分かっていたから、この気持ちに蓋をする事にした。
そして、元貴への想いを忘れたくて、彼女を作った。
彼女の事は好きだったけど、いつもどこかで元貴と比べてしまう自分が居るのに気付かないフリをし続けていたのも事実だった。
それでも6年付き合い、結婚を考えるようにもなったけど、とても怖くなった。
幼い頃に蓋をした忘れられぬ恋。
蓋をしたところで、ずっと何年もあの頃と変わらず元貴の隣に居るのだから、忘れるなんてハナから無理だったんだ。
だから、とても遠回りしたけど、彼女とはちゃんとお別れをして、あの頃閉じた蓋を開ける事にした…。
今日、元貴がおれの目の前で涙を流した。
目にゴミが入ったなんて言ってたけど、嘘に決まってる。
元貴の涙なんて滅多に見ないし、特にあんなにボロボロ泣いてる姿は見たことなくて、驚いたおれは何も出来なかった。
あれからずっと元貴の涙の意味を考えているけど、その答えは出ないまま、時計の針は深夜を指していた。
あの時の元貴の表情は、悲しそうで辛そうで怒っているようにも見えた。
正直、自分に都合のいい考えも過ぎるけど、そんな虫のいい話なんてある訳がないといい聞かせる。
明日、何事もなかったように振る舞うのが正解なのかもしれないけど、あの時の元貴の顔がどうしても忘れられない。
…気付いた時には既に元貴の家に向かっていた。
コメント
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楽しみや…!