「ごめん、こんな時間に。」
「…うん。」
若井は部屋に通して貰い、いつもの場所に腰かける。
“いつもの場所”がある事が嬉しい反面、大森との長い年月を想い、若井は心が苦しくなった。
大森もいつもの場所に膝を抱えて小さくなって座る。
「…泣いてたの?」
前髪で目元を隠しているようだったけど、チラッと見えた大森の目元が赤くなっているのを若井は見逃さなかった。
「赤くなってる。」
若井は手を伸ばし大森の前髪をどけると、そのまま頬に手を滑らし目元を親指で撫でた。
「…優しく…しないで。」
泣きそうになるのを我慢し、膝を抱えている手に力が入る大森。
触って欲しくないのに、跳ね除けられない自分に。
優しくされて、まだ期待してしまう自分に嫌気がさす。
「優しく…したいよ。」
若井はいつもの場所から離れ、大森のすぐ隣に座りなおす。
「なんで泣いてるの?」
大森の目から、零れた涙をそっと拭う。
「っ、やめて。」
今回は逃げる場所なんてないのに、少しでも若井と距離を取りたくて立ち上がる大森だったが、若井は逃がしてくれなかった。
「待って!」
逃げようとする大森に若井も立ち上がり、大森の手を掴むと、そのまま自分の方に引き寄せる。
そして、もうどこにも逃げられないようにぎゅっと抱きしめた。
「もうさ、忘れたふりするのやめよう思って。」
「…。」
「おれ、元貴のことが好き。」
大森を抱きしめる手に力が入る。
首筋が大森の涙で濡れていく。
その涙の意味を知りたくて、若井は大森との間に出来てしまった距離を縮めていく。
「…嘘だっ。だって若井、好きな人居るって…」
「好きな人って言うのは元貴の事だよ。結構分かりやすく言ってたと思うんだけどな。」
「嘘だ…だって、結婚したいって言ってた彼女が居たじゃん。」
「そうだね、でも結婚したら元貴とはもうずっと友達のままなんだって思ったら、一生後悔しながら生きるんだと思って怖くなった。」
「嘘だ…。」
「嘘じゃないよ。だからもう後悔しないようにアピールしてたのに、元貴全然気付いてくれないんだもん。 」
「ウソだっ…。」
「嘘じゃないよ。おれはこれからも元貴と一緒に居たいよ。出来れば恋人として。」
「うそ、だっ、、」
「言っとくけど、おれの初恋元貴だからね?」
「…っ、、」
「元貴、大好きだよ。」
「ぅ、、っ、、 」
「ずっと、大好きだったよ。」
「っ、うぅ…ぼくもっ、、」
ゆっくり大森の腕も若井の背中に回されると、二人はこれまでの遠回り分の距離を縮めるように抱きしめあった。
「…。」
「…若井泣いてる?」
「うん。」
「ふふっ。」
「笑わないでよー!」
お互い泣き顔が恥ずかしくて…と言うのは言い訳で、これまでの分を埋めるように、しばらく抱きしめあっていた。
-fin-
コメント
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もっくん良かったね〜!両思いだ!いつも楽しみに待って貰わせてます!次も楽しみにして待ってます!