テラーノベル
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シェリーは、ゆっくりと黒い杖を持ち上げた。その身体を包んでいるのは、神殿で見た若草色の光。けれど――。その奥で、ときおりどす黒い靄が滲むように揺れている。
(……何、あれ?)
以前、神殿で一瞬だけ見えた黒い揺らぎ。今は、それがはっきりと見える。その傍らで――。
ズシンッ! ズシンッ!
巨大な魔物が地響きを立て、孤児院へ向かってまっすぐ進み始めた。
(……まずいわ!)
「院長先生! 子どもたちを連れて、一番奥の集会室へ! 急いで!」
「あ、ああ!」
「お嬢様ぁぁぁっ!!」
廊下の向こうから、アンナが全力疾走で戻ってきた。
「今の音、なんですかぁ――って……」
窓の外へ目を向けた瞬間、アンナの目が限界まで見開かれる。
「ぎゃああああっ!? ま、魔物ぉぉぉっ!?」
「アンナ!」
「はいっ!」
「子どもたちの避難誘導を手伝いなさい!」
「で、でも、お嬢様は!?」
「私はここに残って、足止めするわ」
「そ、そんなの無茶ですよ!」
「大丈夫よ」
シェリーと魔物から目を離さないまま、不敵に口元を吊り上げる。
「私の一番の取り柄は『しぶとさ』でしょう?」
「…………っ!」
アンナが、ぎゅっと唇を噛んだ。
「……絶対に。絶対に死んじゃ駄目ですからね!」
「分かってるわよ! 早く行きなさい!」
「はいっ!」
アンナが勢いよく振り返る。
「みんな、私についてきて! 押さないで! でも大急ぎでー!」
アンナと職員たちに誘導され、子どもたちが次々と廊下の奥へ逃げていく。その時――。
バリィィン!!
「……っ!」
玄関扉が吹き飛んだ。木片が飛び散り、土煙が巻き上がる。
「グルルルルル……!」
煙の中から現れた巨大な魔物が、逃げていく子どもたちへ顔を向けた。
「行かせないわよ!!」
私は反射的に両手を突き出す。
(お願い――止まって!!)
パァァァァァッ!!
掌から、鮮やかなエメラルドグリーンの光が迸った。魔物の巨体を覆っていた、どす黒い瘴気。それが聖力に触れたそばから、煙のように消えていく。
「グオォォォッ!?」
魔物が苦しげな咆哮を上げ、後ずさった。
(効いてる……!)
(聖力は、やっぱり瘴気を浄化できる!)
なら、こいつを倒す必要なんてない。
花月夜れん
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鷹槻れん

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ひより
6,919
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
5,936
(あと数分)
(子どもたちが逃げ切るまで、ここへ引きつけておけばいい!)
「……ふふっ」
場違いなほど穏やかな笑い声が響いた。シェリーだ。その笑顔を見た瞬間、ぞくりと背筋に冷たいものが走る。黒い杖から滲む、どす黒い瘴気。
(……同じだ)
孤児院の石鹸から立ち上っていたものと。
「……やっぱり、あなたなのね」
指先に聖力を宿したまま、シェリーを睨みつける。
「孤児院や貧民街に配られた石鹸に、瘴気を染み込ませたのも――あなたでしょう?」
「……不思議ですよね」
シェリーが、愛らしい笑みを浮かべた。
「ほんの少し苦しみを取り除いてあげるだけで、みんな泣いて喜んでくれるんです。『聖女様』『神の御使いだ』って」
「……なんて卑劣なことを」
「一度助けてもらった人って、救ってくれた相手を疑わなくなるんですよ」
シェリーが、にこっと笑う。
(笑顔が……怖すぎるんだけど……!)
見た目は、誰もが愛する聖女そのもの。なのに今は――目の前の魔物より、よっぽど恐ろしい。
シェリーが、目を細めた。
「もう、あなたの前で隠す必要はありませんね」
「……え?」
白い指先が胸元へ伸びる。淡い緑色のガラスのブローチ。
カチッ。
それを外すと――。ぞわっ。
「……っ!?」
シェリーの身体を包んでいた若草色の光が、ふっと消えた。代わりに――。どす黒い瘴気が、一気に立ち上る。
「これがないと、少々目立ってしまいますから」
私は、シェリーの手にあるブローチを見つめた。
「そのブローチで、瘴気を治癒魔法に見せかけていたのね」
前世でプレイしたゲームの設定が脳裏に蘇った。
『黒魔法師――』
『生贄を捧げ、瘴気で魔物を操る禁忌の血族』
『かつて帝国によって滅ぼされたが、その末裔は、今なお闇に潜み、復讐を誓う――』
「あなたは……聖女なんかじゃない」
彼女を睨みつける。
「本当は――黒魔法師なのね!」
シェリーの口元がわずかに強張った。けれど――すぐにいつもの柔らかな微笑みに戻る。
「ふふ。そこまでご存じだったんですね」
「カイル殿下も――」
「……え?」
突然飛び出した名前に、思わず眉を寄せた。
「昔は、私のことをちゃんと見てくださっていたんです」
シェリーは、黒い杖を胸元でそっと抱く。
「私が人々を救うたびに、私の力を認めてくださった。必要としてくださった。それなのに最近は――殿下の目には、あなたしか映っていない」
「……それ、私に言われても困るんだけど!?」
「政略結婚だったんでしょう?!」
「ええ。だから?」
「だったら――」
赤い瞳が、すっと細められた。
「私の居場所を、奪わないでください!」
(いや、知らないわよ!!)
(それ、カイル殿下本人に直接言ってくれない!?)
こんな状況でなければ、全力でツッコミを入れているところだ。
「あなたなんて、何もできないお飾りの皇太子妃だと思っていたのに……どうして、私の邪魔ばかりするんですか?」
「邪魔って……」
「ねえ、ソフィア様。いい加減――」
黒い杖を振り上げた。
「もう、消えてください」
「……っ!」
杖が一閃する。溢れ出した黒い瘴気が、魔物の身体へ流れ込んでいく。
「グルァァァァァッ!!」
一度消えたはずの瘴気が、魔物の全身を再び覆った。
ぎょろり。濁った赤い瞳が、私を捉える。
(……まずい!)
その瞬間――。
カッ――!!
「……っ!?」
ポケットの中が、焼けるように熱くなった。カイル殿下から贈られた、銀の懐中時計。その琥珀色の魔石が、激しく明滅している。
(何、これ……!?)
けれど、確認している余裕なんてない。魔物が――私めがけて、地面を蹴った。
コメント
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うわぁ第57話、シェリーの本性バレからの展開がエグすぎる!!😭💥 聖女の仮面を剥いだあの笑顔の怖さよ…「もう、消えてください」って台詞、ゾッとしたけどめちゃくちゃ刺さった…! 孤児院の子ども達を守ろうとするソフィアの強さと、最後の懐中時計の伏線が熱すぎて次回が待ちきれないよ!!🔥✨ シェリーの過去とカイル殿下との関係も気になりすぎる〜!!