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同じ頃――。
「殿下! こっちにもありました!」
騎士の声を聞き、カイルとギルバートが足を速める。
貧民街の、廃工房の裏手。柵で囲まれた空き地に――何頭もの家畜が集められていた。
「……またか」
ギルバートが眉をひそめる。幽霊商会が買い集めていた家畜。その搬送先を辿って貧民街へ入ってから、これで三か所目だ。
「近所の住民によると、昨日の夜中、黒いフードを被った連中が何台もの荷車で運び込んでたらしいっす」
その時。
「団長!」
別の騎士が駆け込んできた。
「別部隊から報告です! 北と東でも、同じように集められた家畜が見つかりました!」
「場所は?」
ギルバートが地図を広げる。
「ここっす!」
一つ。二つ。これまでに発見した場所も加え、地図へ印をつけていく。全部で五か所。
「…………」
カイルが地図を睨んだ。
「ギルバート。線で結んでみろ」
「はいはい……」
ギルバートが、五つの点を線で結んでいく。地図の上に浮かび上がったのは――。
貧民街全体を囲む、巨大な逆五芒星。
「これ……偶然じゃないっすよね?」
そのとき――。
ドォォォォンッ!!
「――っ!」
地面が大きく揺れた。二人が同時に顔を上げる。通りを挟んだ建物の向こうから、どす黒い瘴気が空へ向かって噴き上がっていた。
「……あんなところに瘴気が!?」
ギルバートが剣の柄へ手をかけた。
その瞬間――。
ドクンッ!!
「……っ!?」
カイルの胸の奥で、自身の魔力が激しく脈打った。
ドクンッ! ドクンッ!!
「殿下?」
「…………」
間違えるはずがない。ソフィアへ贈った懐中時計。その魔石へ込めた、自分の魔力だ。持ち主の命に危険が迫ったときだけ――この魔力は共鳴する。
「……ソフィア」
「え?」
カイルの顔から、さっと血の気が引いた。
「ソフィアが危ない」
「ええっ!? 妃殿下が!?」
カイルは目を閉じ、魔力の共鳴へ意識を集中させる。正確な場所までは分からない。
だが――おおよその方向なら分かる。
「あの瘴気の方向だ。行くぞ!」
「了解っす!!」
二人は同時に、路地を駆け出した。
***
ガキィィィィィン!!
「……っ!?」
振り下ろされたはずの巨大な爪が――止まった。恐る恐る目を開ける。視界に飛び込んできたのは、見慣れた軍服。私を庇うように立ち、白銀の剣で魔物の爪を受け止める背中だった。
「…………」
(嘘……)
(どうして、ここに……!?)
「グルァァァァァッ!!」
魔物が咆哮し、さらに爪へ力を込める。けれど――。カイル殿下は、微動だにしなかった。
「――俺の妻に、何をしている」
(つ、妻って……私、離婚届置いて逃げてきたはずなんだけど……!?)
「消えろ。邪魔だ」
白銀の閃光が、瞬いた。
ズバァァァァンッ!!
「グオォォォォッ!?」
魔物の巨体が、大きく揺らぐ。そして――。その身体は勢いよく吹き飛び、その場に崩れ落ちた。
(つ、強すぎる……!!)
(私があれだけ必死に足止めしてた魔物を、一撃で……!?)
いや、知ってはいた。この人は皇太子でありながら、自ら魔物討伐の最前線へ出ているもの。
(戦闘になると普通に化け物級なのよね……)
「ギルバート!」
「子どもたちを保護しろ! ほかに魔物が潜んでいないか、周囲を索敵! それから――その女を包囲しろ!」
「はっ!!」
後続の騎士たち数人がシェリーを取り囲んだ。
「で、殿下……? これは、違うんです。私は――」
シェリーが取り繕うように法衣を整え、微笑んだ。 けれど――。
「そこを動くな」
だが、カイル殿下は一切耳を貸さない。
「妙な動きをすれば、即座に取り押さえろ」
「御意!」
シェリーの笑顔が、ピシリと凍りついた。
「ソフィア!」
「きゃっ!?」
ぐいっと身体を引き寄せられた。
「怪我はないか!?」
「え?」
「どこか痛むところはないか!?」
「わ、私は平気――」
「本当か!?」
「殿下……?」
頬に触れた彼の手が――。かすかに、小刻みに震えている。
「くそっ……!」
ぎゅうっ――と。今度は、痛いほど強く抱きしめられた。
「もし、間に合わなかったら……どうするつもりだったんだ……っ!」
耳元で聞こえる声まで震えている。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
「……ごめんなさい」
抱きしめる腕に、さらに力がこもる。
「無事で……よかった」
(何よ)
離婚届まで置いて逃げてきたのに。そんな声で言われたら――。
(帰りたくなっちゃうじゃない……)
そのとき。
「……ずるいですね」
「え?」
背後から、ぽつりと声が落ちた。シェリーだ。さっきまで浮かべていた天使のような笑顔が完全に――消えている。
「シェリー……?」
「本当に、ずるい」
赤い瞳が、私とカイル殿下を見つめていた。
「何がだ」
カイル殿下が、私を庇うように一歩前へ出る。シェリーは包囲されたまま、黒い杖をぎゅっと握りしめた。
「あなたたちは、いつもそう。全部奪っておいて――何も知らない顔で、幸せそうにする。……それを見ると、壊してやりたくなるんです」
「何の話だ」
「私がひどい? 罪のない人たちを苦しめたから? 魔物で人を殺そうとしたから?」
ぎゅっ。
黒い杖を握る指に、白くなるほど力がこもる。
「だったら――私から最初にすべてを奪った人たちは、どうなるんですか?」
「……何だと?」
「父も、母も、愛する一族も……私からすべてを奪ったのは――」
シェリーが顔を上げる。赤い瞳が、カイル殿下を真っ直ぐに射抜いた。
「このオルディス帝国なんですよ!」
コメント
1件
読み終わりました……「俺の妻に何をしている」って台詞、震えました🥀カイル殿下が震える手でソフィアを抱きしめるシーン、普段クールな人があそこまで動揺するの、逆に重みがあって胸が苦しくなった……シェリーの「ずるいですね」にもすべてを奪われた者の怨念が詰まってて、続きが気になりすぎます。ひよりさんの「守る人の弱さ」の描き方、本当に好きです🌙
花月夜れん
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鷹槻れん

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ひより
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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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