テラーノベル
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休憩時間だった。
チャイムが鳴って、
廊下に一気に人が溢れ出す。
そのざわめきの中で、
翠のクラスだけが、異様に騒がしかった。
「……え、なに?」
「倒れたって……」
近くのクラスから、
ひそひそ声が流れ込んでくる。
黄は、
自分の教室のドア越しに聞こえたその空気に、
ぴたりと足を止めた。
(……この感じ)
嫌な予感が、
一瞬で背中を駆け上がる。
「ちょっと様子見てくる」
友達にそう言い残して、
黄は廊下に出た。
人だかり。
視線の先。
床に座り込んだまま、
ぐったりと力を失っている人影。
「……っ」
喉が、きゅっと詰まる。
———見間違えるわけがなかった。
「……翠、くん?」
名前を呼ぶ声は、
自分でも驚くほど小さかった。
先生が対応している。
「触らないで、スペース空けて」
「保健室に連絡は?」
「もう行ってます!」
その会話の中に、
さっきまでの出来事が、断片的に混ざる。
「急に呼吸が乱れて……」
「触ろうとしたら、すごく拒否して……」
「叫んでて……」
その言葉一つ一つが、
黄の胸を締めつける。
(……触られるの、嫌がった?)
(そんなに……)
黄は、
一歩、前に出かけて———
でも、止まった。
自分まで拒絶されてしまったら、どうしよう
さっき聞こえてきた会話が、耳の奥に残っている。
(……今、触ったら)
(余計、怖がらせる)
拳を握りしめて、
ただ、見守るしかなかった。
翠は、
意識を失ったまま。
まつ毛が、
かすかに震えるだけで、
反応はない。
「……」
黄の視界が、
じわっと滲む。
(知らなかった)
(こんなになるまで)
先生が、
ゆっくり声をかける。
「担架、来るからね」
「大丈夫。今は、休もう」
その“大丈夫”に、
翠は反応しない。
廊下の端。
黄は、
壁に手をついて、深く息を吸った。
(赫っちゃんが守られてた間に)
(翠君は、一人で、どこまで……)
瑞は、
別の階。
赫は、
保健室。
一番近くにいるはずだった人たちが、
この場に揃っていない。
それが、
余計に現実味を帯びさせる。
「……先生」
黄は、
震える声で、学年主任を呼び止めた。
「翠くん……」
言葉が、詰まる。
「……ずっと、
我慢してたんですか?」
先生は、
一瞬、目を伏せた。
否定しない。
その沈黙が、
何よりの答えだった。
担架が運ばれてくる。
翠は、
慎重に乗せられ、
廊下を進んでいく。
黄は、
最後まで目を離せなかった。
一番大切な人が、
すぐ隣で壊れていくのを、
見ていなかった。
その事実が、
黄の胸に、深く沈んでいった。
コメント
2件
ああああぁ翠っちゃん!!!! ちょ存在しない共感性羞恥が(