テラーノベル
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保健室は、授業前の静かな時間だった。
カーテン越しの光が白く床に落ちていて、換気のために少しだけ開いた窓から、校庭のざわめきが遠くに聞こえる。
赫はベッドの端に腰かけて、
教科担の先生にもらったワークを膝に置いたまま、ページを閉じていた。
休憩時間。
やることもなくて、ただぼんやりと外を眺めていた。
(……暇だな)
そんなことを考えていた、その時。
———ガラッ!!
保健室のドアが、勢いよく開いた。
「ちょっと!急いで!」
聞き慣れない切羽詰まった声。
赫が反射的に振り向く。
次の瞬間、視界に飛び込んできたのは——
担架。
そして、その上に横たわる人影。
「……え?」
一瞬、思考が止まった。
白いシーツの下から覗く、見覚えのある制服。
力なく垂れた手。
荒く、浅く、追い詰められたような呼吸。
「……翠、にぃ……?」
声が、震えた。
思わず立ち上がった、その瞬間。
「———っ!!」
担架の上で、翠の身体がびくりと跳ねた。
目は閉じているのに、
眉が苦しそうに歪んで、喉から掠れた息が漏れる。
「やだ……さわらないで……」
か細い、でも必死な声。
「だめ、来ないで……!」
赫の心臓が、嫌な音を立てた。
(なに……? なんで……?)
何も知らない。
状況も、理由も、さっき教室で何があったのかも。
ただ目の前にいるのは、
明らかに“普通じゃない”翠だった。
「翠、にぃ……俺、赫……」
近づこうとした、その瞬間。
「っ!!」
翠の呼吸が、一気に乱れる。
「やだ!!来ないで!!」
叫びに近い声。
身体が強張り、必死に逃げようとするみたいに肩が震える。
「……っ、ごめ……!」
赫は慌てて足を止めた。
(俺が……いるから……?)
そう思った瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
保健の先生が急いで指示を出す。
「距離取って!今は刺激しないで!」
「……翠君、深呼吸しよう。大丈夫、ここは保健室だよ」
優しい声も、もう届かない。
翠の世界は、完全に閉じてしまっていた。
指先が小刻みに震え、
呼吸は浅く、早く、苦しそうで。
そして———
ふっと。
まるで糸が切れたみたいに、
翠の身体から力が抜けた。
「……っ!」
「翠にぃ!?」
担架が静かに止まり、
翠の頭がそっとシーツに沈む。
意識が、落ちた。
赫は、その場に立ち尽くしたまま動けなかった。
(……倒れた?)
(さっきまで……叫んでたのに……)
訳が分からない。
怖い。
でもそれ以上に———
胸の奥が、ずっとざわざわしてる。
(俺……何も知らなかった)
(翠が、こんなになるまで……)
窓の外では、いつも通りの学校の音が流れているのに、
保健室の中だけ、時間が止まったみたいだった。
赫は、ぎゅっと拳を握る。
(……探す)
(絶対……全部、繋げる)
まだ名前のない違和感が、
確実に「翠」に向かって
集まってきていることを———
この時の赫は、もう感じ始めていた。
コメント
2件
んーーー 気まずいえなんか秘密ばれる系の、バレる瞬間何度観てもなれないんよな ちょ心痛い死にそう