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ヤッホ!
髪切った!
行ってらっしゃい~
朝。
カーテンの隙間から、やわらかな光が差し込んでいた。
「……朝、か」
ちぐさはゆっくりと体を起こす。
胸の奥に、まだ水の感触が残っている。
(夢……だった、よね)
扉の向こうから、控えめなノック。
「起きてる?」
らおの声。
「うん、起きてる」
扉が開き、らおが顔を出す。
「顔色、悪くないな」
「昨日よりは」
らおは少しだけ安心したように息をついた。
「朝飯、できてる。無理なら後でもいい」
「……食べる」
◇
通学路。
朝の空気は、少しひんやりしている。
「昨日の夢のことだけど」
ちぐさが歩きながら言う。
「水の宮殿、はっきり見えた」
「……」
らおは黙って続きを待つ。
「幼い頃の僕と、らおがいた」
「そうか」
それだけ。
らおは、深く踏み込まない。
「……怖くないの?」
ちぐさが尋ねる。
「思い出すこと」
らおは少し考えてから答えた。
「怖い、というより」
「……?」
「今のチグサが、壊れないかが心配だ」
ちぐさは足を止めた。
「僕、そんなに弱く見える?」
らおはすぐに首を振る。
「違う」
「なら」
「優しすぎる」
その言葉に、ちぐさは目を瞬かせた。
「優しいやつは、自分を後回しにする」
「……」
「それが、心配なんだ」
ちぐさは、少しだけ笑った。
「らおって、ほんと……」
「?」
「昔から、そうだよね」
らおは答えなかったが、歩調を少しだけ緩めた。
◇
教室。
朝のざわめき。
「ちぐちゃーん!」
あっきぃがすぐに手を振る。
「おはよう」
「昨日大丈夫だった?」
「うん、もう平気」
らおが前の席に座る。
「……なあ」
あっきぃが声を落とす。
「昨日さ」
「?」
「体育館で、ちょっと変じゃなかった?」
ちぐさは一瞬、言葉に詰まる。
「……変?」
「うん。なんか、空気がさ」
あっきぃは首をかしげる。
「うまく言えないけど」
ちぐさは首を振った。
「気のせいじゃない?」
「そっか」
あっきぃはそれ以上追及しなかった。
前の席から、らおがちらりと振り返る。
(……気づき始めている)
◇
昼休み。
「なあなあ!」
ぷりっつが机に肘をつく。
「ちぐちゃん、部活どうするん?」
「まだ、決めてない」
「見学、楽しかったやろ?」
「うん」
まぜたが静かに言う。
「……バスケ、向いてそうだった」
「え?」
ちぐさが驚く。
「見てる時の目が、集中してた」
「そう?」
ぷりっつが笑う。
「まぜた、そういうとこよう見とるねん」
「別に」
あっきぃが手を挙げる。
「無理に決めなくていいからね!」
「ありがとう」
そのとき。
——ちゃぷ。
ちぐさの耳に、かすかな水音。
(……また)
視線を落とすと、机の影が揺れた気がした。
「ちぐちゃん?」
けちゃが心配そうにのぞき込む。
「だいじょぶ?」
「……うん」
ちぐさは小さく息を整える。
あっとが静かに言った。
「無理はしない方がいい」
「ありがとう」
あっとは、少しだけ視線を逸らす。
「……最近、空気が変だ」
「?」
「理由は分からないけど」
その言葉に、らおの指先がわずかに動いた。
◇
放課後。
校舎裏。
人の少ない場所。
ちぐさは、ひとりで立ち止まっていた。
「……ここなら」
手を伸ばす。
風が、ほんの少し動く。
同時に。
足元に、うっすらと水の気配。
(まだ……触れるだけ)
「チグサ」
後ろから声。
らおだった。
「一人でやるな」
「……ごめん」
らおは隣に立つ。
「焦らなくていい」
「でも」
「この世界には、この世界の時間がある」
ちぐさは、そっと手を引いた。
「……ここに、いていいんだよね」
らおは、迷わず答えた。
「いるべきだ」
その言葉に、胸が少し軽くなる。
遠くで、誰かの笑い声。
日常は、何も知らないまま続いていく。
けれど。
水面に落ちた一滴のように。
小さな波紋は、確かに広がり始めていた。
——続く。
オカ( ゚д゚)エリ
またね!