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昭和47年11月児玉詩織の死刑が執行された。
執行当日の朝は取り乱す様子もなく、教誨師に深々と頭を下げて、
「ありがとうございます」
と、感謝を伝えた。
これが詩織の最期の言葉となった。
遺体の引き取りには、誰一人名乗り出ず、火葬の後は無縁仏として葬られた。
詩織は生前、獄中にて詩を唄っている。
ひとりぼっちで生まれ、ひとりぼっちで死んでいく。
私は蓮の花。
沼の底よりもなお、深くていじらしい。
わたしは蓮の花。
白痴で愚かな蓮の花。
暗闇。
あやかし。
無垢な心。
どうせなら。
誰一人、虫けらでいて下さい。
世の中が真っ当で。
生糸の先端を、蜘蛛が這いずり回る罪悪感に苛まれることなく。
漂ういのちに鎮魂と尊厳を焚べながら。
いつもと変わり無く。
幽かに。
怨を抱いたまま。
蟲に喰われる私の亡骸を。
どうぞ、笑ってやってくださいな。
ヨガマサノ、キイトキレルヤ、カスラムシ。
ヨガマサノ、キイトキレルヤ、カスラムシ。
ヨガマサノ、キイトキレルヤ、カスラムシ。
世ガ真ノ 希糸切レルヤ 幽怨蟲。
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