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【第十三話:月下のトリプル・チェス】
数日後。都内の超高層ホテルの最上階。
今夜、怪盗キッドが狙うのは、そのホテルの展望ロビーに展示された伝説のブルーダイヤモンド『群青の涙』。
中森警部率いる一課の警備陣が厳戒態勢を敷く中、そのホテルの屋上へと続く非常階段の踊り場に、二人の男の姿があった。
「……随分と大掛かりな包囲網だな、ゼロ」
松田陣平は、上着のポケットに手を突っ込んだまま、隣に立つ降谷零を横目で睨んだ。
今夜の警備には、中森たち一課の裏で、明らかに降谷が動かしている公安の私服捜査員たちが多数配置されていた。その網の細かさは、あのガキを文字通り「生かして帰さない」という執念の現れだった。
「言ったはずさ、松田。国際犯罪者をこれ以上野放しにはできないとね。……君が奴を捕まえないなら、僕が公安のやり方で奴のすべてを剥ぎ取るまでだ」
降谷は冷徹な眼光を崩さないまま、インカムに手を当てて周囲の状況を確認している。
松田はチッと小さく舌打ちをした。
(ゼロのやつ、完全に本気だ。普通に逃げようとすりゃ、あのガキは今夜で終わる……!)
松田の胸を焦がすのは、焦燥感だった。快斗が自分を傷つけられない以上、松田が前に出れば出るほど、快斗の退路は狭まる。だが、自分が動かなければ、ゼロの容赦ない網がキッドを絡め取るだろう。
その時、最上階の全ての照明が、一瞬にして弾け飛んだ。
――暗転。
「レディース・アンド・ジェントルメン!」
闇に包まれた展望ロビーに、突如として響き渡る拡声器の声。
次の瞬間、仕込まれていた無数のストロボが激しく明滅し、ガラス窓の前に純白の衣装を纏った怪盗キッド――黒羽快斗が、まるで虚空から現れたかのように姿を現した。その手にはすでに、青く輝く『群青の涙』が握られている。
「今夜の奇跡(マジック)は、これにて閉幕とさせていただきます!」
キッドは不敵な笑みを浮かべ、いつものように完璧なポーカーフェイスで警察たちを翻弄し始めた。中森たちの怒号が飛び交い、煙幕がフロアを覆う。
だが、その煙の向こうから、一切の躊躇なく突き進んでくる二つの影を、快斗の目は確かに捉えていた。
サングラスを外し、野生的な勘で煙を切り裂いてくる松田陣平。
そして、その背後から、完璧な連携でキッドの逃走ルートを塞ぐように回り込む降谷零。
(……やっぱり、二人とも来たか……!)
仮面の下で、快斗は固く奥歯を噛み締めた。
普通の警察なら、このスモークと手品で一瞬にして撒ける。だが、目の前にいるのは、自分にとって世界で一番大切な命の恩人と、その国を守る冷徹な公安のトップだ。
トランプ銃を握る快斗の指先が、再び微かに震え始める。
引けばあの人たちを巻き込む。引かなければ、ここで自分の旅は終わる。
月光が差し込む高層フロアの最上階。逃げ場のない空中庭園のようなその空間で、キッド、松田、降谷の三人の運命が、今夜、決定的な瞬間を迎えようとしていた――。
コメント
3件
怪盗キッドは引き金を引くのかな…それとも引かないのかな……どうするんだろ、!
どうなるんだろう… 続きが楽しみです!
ああもう、13話めっちゃ重かった……! 松田と降谷、二人同時にキッドを追い詰める展開、心臓バクバクしたよ。特に「引けば巻き込む、引かなければ終わる」って快斗の葛藤が痛いほど伝わってきた。怪盗としての完璧な仮面の下で、あの二人に対してだけは震えちゃう指……そこ、本当にグッときた。千導さん、この三すくみの緊張感、最高です🖤