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翌朝───
窓から差し込む淡い朝陽に瞼を刺激され、ゆっくりと目を開ける。
(あ……朝…?)
車内だということをすぐには認識できなかった。
それだけ昨晩の車中泊は自然な眠りへ誘ってくれたのだろう。
隣を見ると尊さんがまだすやすやと眠っていた。
伏せた長い睫毛が美しく、額にかかる前髪が無造作に散らばっている。
(……可愛い寝顔)
普段は凛々しい表情が多い分、こうした無防備な姿に胸がきゅんとする。
起こすのも忍びない。
でも一緒に過ごせる時間は限られている。
少し迷った末にそっと唇を寄せて耳元で囁いた。
「尊さん……起きてください」
「……ん」
低く掠れた声が返ってくる。
「朝ですよ」
「あぁ……もう朝か……」
尊さんは眩しそうに眉を寄せながらも、すぐに腕を伸ばして俺の身体を引き寄せた。
「おはよう……恋」
寝起き特有の甘い声が心臓を締め付ける。
「おはようございます……尊さん」
ぎゅっと抱きしめられ、昨日の疲れなど全て吹き飛んでしまうほどの幸福感に包まれた。
「よく眠れたか?」
「はい、すごく快適でした」
尊さんの温もりに身を預けつつ、少しだけ距離を取って顔を覗き込む。
「尊さんは?俺寝相悪くなかったですか?」
「全くだ。強いて言うなら、お前が体寄せてスリスリしてきたぐらい、か」
その言葉に思わず頬が熱くなる。
きっと無意識に甘えていたのだろう。
「え?!す、すみません!どこか痛くないですか…っ?」
「ふっ、大丈夫だ」
くしゃりと頭を撫でられて、頬が紅潮してしまう。
(寝起きの尊さん…というか今更だけどこの距離感…!心臓が持ちそうにない)
その後、程なくして車を走らせ、白珱ビーチの駐車場に戻ってきた。
昨日の夕暮れ時に来た場所と同じだが、早朝の澄んだ空気の中で見る景色はまた違った趣がある。
「早朝の海も綺麗だな」
「昨日来たのは昼頃でしたもんね」
砂浜へ足を踏み入れる。
まだ誰の足跡もない真新しい砂地を踏む感触が心地良い。
波打ち際に近づくにつれ、冷たくて気持ちいい海風が肌を撫でる。
海によく目を向ければ
早朝の光が海面に反射して、キラキラと輝いており
空と海が織りなす穏やかなグラデーションが美しい。
その絶景を見て、ふと思いつき、尊さんの方に振り向く。
「あの…尊さん……!」
「なんだ?」
「せっかくですし、一緒に写真撮りませんか…?」
尊さんは少し驚いたように目を見開いた後、すぐに破顔する。「いいな。記念になる」
ポケットからスマホを取り出しインカメラを向ける。
二人で肩を寄せ合い、シャッターを押す。
画面の中には笑顔満開の自分が写っている。隣の尊さんは相変わらずクールだけど、それがまたいい。
一枚、二枚とシャッター音が響くたび、幸せな瞬間が刻まれていく。
「尊さん!これ、ホーム画面にしてもいいですか?」
「…ああ、あとで俺にも送っといてくれ」
「はい!」
その後
海辺を一通り散策して戻ると、ちょうど海の家の開店時間が近づいていた。
「もう8時か」
尊さんが腕時計を見ながら呟く。
「さっきまで6時だったのに、早いですね。とりあえず、海の家でご飯にしませんか?」
聞くと、尊さんも頷いた。
「そうだな。確かこの時間帯にしか食べられないスイーツやメニューがあったはずだ」
「モーニングってやつですか?!気になります!!」
海の家の方に目を向けると向こうには既に数組の客がいて、香ばしい匂いが漂ってくる。
「慌てすぎて転ぶなよ?」
「もうっ、わかってますって」
店内に入ると、昨日同様に木の温もりあるテーブル席が並び、壁にはサーフボードが飾られている。
まだ開店直後だからか案外空いていた。
カウンター二席に並んで座ると
「何にする?」
尊さんがメニューを開きながら訊ねてくる。
「わっ、この『白珱サンド』ってやつ美味しそうですね!」
ふわふわ白パンに卵・ハム・レタスを挟んだ定番サンドだが、店1番の人気メニューと書かれていることから、期待せずにはいられない。
「恋、それならこれも合うぞ」
言いながら尊さんが指を指して教えてくれたのはイチゴとブルーベリーが乗った『潮風いちごボウル』と書かれたヨーグルトで
〝ギリシャヨーグルトの上に、地元で摘まれたばかりの苺とブルーベリーがたっぷり!ほんのり香る海藻由来のグラノーラが、さくさくとした食感を添えてくれる♪〟という紹介文が添えられていた。
その鮮やかな赤と青のコントラストは、まるで白銀の大地に咲いた小さな花畑のようだった。
「え、グラノーラに海藻が入ってるんですか?」
俺は目を丸くして尋ねた。
海藻といえば和食のイメージが強く、まさかヨーグルトのトッピングに使われているとは予想外だったからだ。
しかし、紹介文にある「ほんのり香る」という表現が、その斬新な組み合わせへの好奇心を刺激する。
「ああ、ここのオリジナルだろうな。俺も初めて食べた時は驚いたが、変に磯臭いわけじゃなく、塩気がフルーツの甘さを引き立てていて絶妙なんだ」
人気No.1のサンドイッチだけでは少し物足りないと思っていたところだ。
「そうなんですか…それならサンドと相性良さそうですし、それにします!」
「じゃあ俺は……これにするか」
「ビーチエッグプレート…??これまた美味しそうですね…っ」
「これも中々クセになる味だ。恋、飲み物はどれにする?」
「えっと…あっ、じゃあこのココナッツミルクラテで」
「よし、頼むか」
尊さんはそう言って、メニューをさっと閉じ、店員に視線を送った。
店員が注文を取りに来ると、尊さんは慣れたようにサラっとオーダーを伝える。
彼の言葉には、この店を知り尽くしたような、確かな自信が滲んでいる。
(尊さんのおすすめなら、間違いないな)