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「部長のアンタを含めた特定の社員数名を、今回のプロジェクトのために各部署から集めた。本社では精鋭チームと呼んで、表向きは称賛していたが」
「…………」
「影では、烏合之衆と呼ばれていたのさ。意味はわかるよな?」
嘲笑いながら告げられる真実を聞いて、男は信じられないものを見る眼差しを高橋に向けた。
「そんな、の。なんで、どうしてだ? 難しいプロジェクトを成功させるために、選り抜きを集めたはずだろ?」
「会社にとって、お荷物になる人材を集めただけのことさ。プロジェクトがとん挫するのも、最初から計算済みだ。だって低レベルの仕事しかできない、ダメ社員のチームなんだから」
「俺たちがダメ社員……」
街灯の下で見る男の表情が、悲壮感にどんどん満ち溢れていく。眼差しには先ほどまでなかった悲しげな影がよぎり、目の前にいる高橋を見ることなく、突きつけられた現実だけを見据えるようにぼんやりしていた。
「牧野はまったく耳を貸さなかったが、俺としては駄目なりに、頑張ってやってくれる可能性はあるだろうと考えて、上層部に一応かけ合った。だが、話の途中で一蹴されてしまった」
絶望の淵にいる男に手を差し伸べるように語りかけつつも、語尾に向かうに従って、高橋の感情とリンクすることをわざわざ教えてやった。
「上層部に掛け合っただと? 今回のプロジェクトについて、おまえには何のメリットもないのに、どうしてそんなことをしたんだ?」
「そんなの簡単だろ。牧野の思惑が崩れるところを見たいからさ」
男が精神崩壊するであろう、カウントダウンをはじめる。人の心を弄んできた高橋のこれまでの経験が、存分に発揮されようとした。
「おまえ、いったい何を考えてるんだ。牧野の手によって本社に引き抜かれた、優秀で忠実な社員だったんじゃないのか?」
「優秀で忠実な社員……そんなふうに見えるように、装っていただけなのに。だから馬鹿なアンタたちは俺だけじゃなく、会社にも簡単に騙されるんだ」
喉の奥で笑いながら、流暢に語られる言葉を、男は黙ったまま息を飲んで聞き入った。
「事実を突きつけられて、ショックでなにも喋れなくなったってところか。チームの中でもアンタは上にいて、社員それぞれの仕事の能力を自分の目で実際に確認して、なにも思わなかったのがおかしいだろ」
「あ……」
高橋に指摘されて何か思うことがあったのか、後悔に似た表情をみせた。
「広い視野で物事を見つめられないだけじゃなく、社員の能力についても見極められないアンタは終わってる。今後どこに行っても、パシり程度の仕事しかさせてもらえないだろうさ」
「そんな――」
悔しくてたまらないという顔つきの男に、嘲笑とハッキリわかる歪んだ笑みを浮かべた。
「まぁ馬鹿には、そんな仕事がお似合いか」
くくっと笑った瞬間、高橋に向かって男が音もなく突進する。果物ナイフが肋骨のあたりを貫いた。
「おいおい、アンタの力はそれだけか。刃先が皮膚の表面を触ってるだけだぞ。これなら傷害事件にもなりゃしない」
深手を負っているのを隠し、もっと刺せと言わんばかりの挑発を口走ったら、更に力を込めてナイフを突き刺してきた。その力を受け止めるべく、両足でしっかり踏ん張る。
切り傷とは比べ物にならない痛みが、高橋の意識を支配しようとしていた。それに負けないように奥歯を噛みしめてやり過ごし、男の肩をぽんぽん叩いて話しかける。
「ハハッ! 会社への恨みは……牧野への恨みはそんなものなのか。痛くも痒くもない」
「高橋っ、どうしていつもそうやって、俺をバカにするんだ。おまえなんて、おまえなんて!」
男の絶叫が辺りに響き渡った。その声に驚いた通行人がギョッとして、自分たちに目を留める。