いつもこれでもかというほど沢山の飯を食うはずのエースが腹が減らないなんて何かあったのかと思ったのだが、どうやらそんな事はないらしい。
オレのベッドシーツをキュッと掴んで俯きがちになっているエースに違和感を覚えるが、未だその違和感の正体を理解できない。
「……エース」
「なんだ?」
「……いや、何でもねェ」
「?変な奴だな」
そう呟いてから再び沈黙が訪れる。
別に話すことが無いわけじゃない。
オレはエースのことを好ましく思っているしわいわいしながら馬鹿な話でも語り合いたいが、どうもそんな気分になれなかった。
何も話さないでいるままでどれほど時間が経ったのだろう。
十分か、十五分か、もしかしたら本当は三分も経っていないかもしれない。
そんな中、先に痺れを切らしたのはエースの方だった。
「……カルト」
「どうした?エース」
「あ、あの、な。お前といるとおれ、変なんだ」
「へぇ、どんな風に」
「心臓がドキドキして、でももっとお前と一緒にいたくなるんだ」
そう言い終わると同時にオレの服の裾を掴むと、上目遣いで見上げてきた。
まるでオレの庇護欲を刺激するかのような仕草に思わず息を飲む。
(コイツ、わざとやってんのか?)
無意識なのか意識的なのか分からないが、オレの理性を削るには充分すぎる行動だ。
「だから、その、お前さえ良ければ一緒に寝てもいいか……?」
「は、」
「だ、だめならいいんだ!悪ィな!忘れてくれ!」
そう言って立ち上がって部屋を出て行こうとするエースの腕を掴んで引き寄せると、バランスを崩して倒れ込んできたのでそのまま抱きしめてやる。
「え、カルト?」
「いいぜ、一緒に寝ようぜ」
「え、ほ、本当か!やった!」
オレが許可を出すとぱあっと明るくなって嬉しそうな笑顔を浮かべるエース。
本当にコロコロと表情が変わるやつだ。
けれどきっとこの幸福も終わりを迎えてしまう。
オレは、死神だから。
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