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「だから!その恥ずかしい台詞を真顔で吐くのをやめろって言ってるだろ!」
顔から火が出そうなほど熱くなる俺を見て、直哉はふっと、いたずらが成功した子供のように妖しく笑った。
「兄さん、俺の前だとずっと顔が赤いね」
「……っ」
うるさい。
そんなの、言われなくても自分自身が一番よく分かっている。
だって、いくら混乱しているとはいえ
一度は「付き合う」と決めた相手なのだ。
あんな整った顔で、一切の迷いもなく真っ直ぐに見つめられて
平気でいられる強靭な心臓なんて持ち合わせているわけがない。
翌日
「おはよ、翔。昨日の課題やった?」
「……おー、おはよ。一応やったけど、数学マジで意味不明だったわ」
いつものように、自分の教室で朝から友人と他愛のない話をしていた、その時だった。
「兄さん、やっほ~」
廊下側の引き戸が開く音と共に、やけに耳に馴染んでしまった、少し低くて甘い声が響いた。
最悪な嫌な予感がして、恐る恐る振り返る。
そこには、朝の爽やかな光を浴びて、無駄に顔面の見栄えが良すぎる義弟が立っていた。
「迎えに来たよ♪」
「はぁ!?」
その瞬間
ガタガタと教室中の椅子が鳴り、クラスメイトたちの視線が一斉に俺と直哉の間に突き刺さった。
いや待て待て待て!!
なんで1年の奴が、当然のような顔をして2年の教室の前に降臨しているんだ!
「お前、なんでこっちのフロアに来てんだよ!早く自分の教室戻れ!」
「え~だって~!朝から兄さんに会いたかったんだもん!」
悪びれもせず、直哉はトコトコと俺の机の前まで歩いてくる。
その堂々たる一言に、周囲の女子たちが「えっ!?」と小さく悲鳴を上げ、色めき立った。
「え、ちょっと待って、本当に仲良すぎない?」
「毎朝迎えに来てくれる弟とか、理想の弟すぎて無理なんだけど!」
違う。
周囲の女子たちよ、騙されるな。
こいつは全然理想の弟なんかじゃない。
こいつは、もっとこう……
パーソナルスペースという概念が完全に崩壊している、距離感の終わっている男なのだ。
「いいから早く帰れ!!」
「ひどいなぁ、兄さんは冷たいね」
直哉はわざとらしく、キュンと眉を下げてしょんぼりとした顔をしてみせた。
周囲の女子から「可哀想……」という視線が俺に刺さる。
本当に計算高い奴だ。
直哉はそのまま、机の下で俺の制服の袖口をキュッと指先で掴んできた。
「放課後、絶対に一緒に帰ろうね?約束だから」
「……」
「兄さん?」
「その顔をやめろ」
犬だ。
雨の日に捨てられた哀愁漂う大型犬の目がそこにあった。
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