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ここで冷たく突き放せるほど、俺の心臓は毛深くできていない。
「……わかった、わかったから離せよ!」
「うん、約束ね!」
途端に、パッと花が咲いたような満面の笑みに戻る。
袖口を離して嬉しそうに手を振る直哉の背中を見送りながら
「チョロすぎるな、俺……」と、机に突っ伏して深い溜息を吐いた。
◆◇◆◇
昼休み
購買で焼きそばパンとパックの牛乳を買い、混雑する廊下を戻ってくる途中だった。
「あれ、田口くんじゃん!ねえねえ、ちょっと話そ!」
少し開けた渡り廊下の向こうで、女子生徒数人に囲まれている直哉の姿が目に入った。
「ねぇ、田口くんって今、彼女とかいるの?」
「好きなタイプは?どんな女の子が好きなの?」
きゃあきゃあと騒がれ、質問攻めに合っている。
直哉は困ったような、けれど崩さない営業用のスマイルを浮かべて適当に受け流していた。
さすがは学校一の人気者、といった光景だ。
……なのに。
それを見た瞬間
俺の胸の奥が、モヤモヤとした黒い感情で満たされていくのが分かった。
なんだか無性に、イラついてしまう。
別に、付き合ってるんだから自分だけのものだとか
そういう傲慢なことを考えているわけじゃない。
いや、多少は……本当に、ほんの少しはそういう気持ちもあるのかもしれないけれど。
(なんであいつ、あんな風に平然と他の女子と話してんだよ……)
そう心の中で毒づいた、まさにその瞬間だった。
人だかりの隙間から、直哉がふっと、正確にこちらへと視線を向けた。
完全に、目が合った。
直哉の瞳が、俺の姿を捉えた瞬間
それまで浮かべていた完璧な営業用スマイルが、すっと消える。
「ごめん、そういうの興味ないから。じゃあ」
直哉は冷淡とも言えるトーンで女子たちにそう言い残すと
彼女たちが引き止める声も無視して、こちらへと歩いてきた。
「兄さん」
「……なに」
「迎えに来た」
「昼休みになんで毎時間のように現れるんだよ」
俺がツンとそっぽを向くと、直哉は俺の手から
今しがた購買で買ってきたばかりの焼きそばパンをひょいと取り上げた。
そして、俺が止める間もなく、端っこをパクリと一口食べる。
「あ、美味い」
「は!? 何勝手に食ってんだよ、俺のお昼!!」
「兄さんが買ったパンだから、余計に美味しい」
「か、返せ!」
奪い返そうとする俺に対して、直哉は少しだけ上体を屈め、顔を近づけて小さく笑った。
「ねぇ、兄さん。さっき、ちょっと嫉妬したでしょ」
「っ、……な、ナニ言ってんだ!してねぇし、一ミリもしてねぇし!」
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