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莉久⚁⚄[低浮上]
33
#ご本人様には関係❌
第4話 あんたが熱い!!
二週間後。
游舞は、天灯共同医療福祉院で栖梧の診察を受けていた。
「痛みは?」
「ねえ」
「水に触れた際の違和感は?」
「それもねえ」
栖梧は、以前赤くなっていた首筋や腕を慎重に確認した。赤みはすでに引き、鱗の浮かんでいた箇所に薄い痕が残っているだけだった。
「香律も安定しています。北の保養宿へ行くことは許可します」
「よっしゃ!!」
後ろで見守っていた陸獣由来と猛禽由来も拳を上げた。
「ただし、強い流れの中へ入らないこと。肌を強く擦ったり、長時間圧迫したりしないこと。急激な温度変化も避けてください」
「分かった!」
「本当に分かっていますか?」
「今回はちゃんと守る!」
「前回も同じことを聞きました」
「今回は俺たちも見張る」
「こいつが無茶したら、すぐ止めるから」
「くれぐれもお願いします」
「俺への信用がねえ!」
「これまでの行動に基づいた判断です」
「……はい」
こうして正式な許可を得た三人は、北の保養宿へ向かった。
宿に併設された大遊泳場には、広い遊泳池のほか、緩やかに流れる水路や水の幕、岩の間を巡る浅瀬まで揃っていた。
游舞は大遊泳場へ入った瞬間、全身を水へ沈めた。
「冷てえ! 最高ーーー!!」
「お前、温泉の時と顔が違いすぎるだろ」
「これが本来の俺だ!」
三人は遊泳場を泳ぎ回りながら、朗峻の姿を探した。
「いねえな」
「情報、本当に今日だったのか?」
「間違いねえよ。記録にも――」
「君たち」
三人が一斉に振り返った。
探していた朗峻が、すぐ後ろに立っていた。
「やっぱり、あの時の三人だ」
「……あ」
游舞の口から、間の抜けた声が漏れた。
「君、もう身体は大丈夫なのか?」
「ろ、朗峻さん……。だ、大丈夫です」
猛禽由来と陸獣由来は、素早く顔を見合わせた。
「俺たち、流れる水路に行ってくるわ」
「え?」
「ゆっくり話せよ」
「ちょ、お前ら!」
「強い流れには入るなよ!」
「それ俺に言うやつだろ!」
二人は游舞の抗議を無視し、その場を離れていった。
残された游舞は、朗峻と向かい合う。
記録板越しに何度も見た顔が、今は手を伸ばせば届くところにある。
「ずっと、君のことが気になっていたんだ」
「お、俺の……?」
「あの後、すぐに館員から処置を受けられたと聞いたが、詳しい容体までは分からなかったから」
「もう何ともねえ……です。ほら、今日はちゃんと水温も調べてきたし」
「そうか。よかった」
朗峻が安堵したように笑った。
游舞の鼓動が、一気に速くなる。
駄目だ。近くで見ると、記録板よりさらに男前だった。
水に濡れた髪。精悍な顔立ち。鍛えられた肩から胸元へ続く、無駄のない線。
まともに見ていられず、游舞は顔を逸らした。
その時、朗峻の目が、首筋に残った薄い痕へ向いた。
「ここは、まだ痕が残っているんだな」
「ああ。痛くはねえけど」
朗峻の表情が曇った。
「本当にごめん」
「なんであんたが謝るんだよ」
「俺が近づいたせいで、君は無理をしたんだろう?」
「それは俺が勝手に――」
「もっと早く気づいていれば、止められたかもしれない」
朗峻は、游舞の瞳をまっすぐ見つめた。
「君の身体にこんな痕を残してしまって、本当にごめんね……?」
そんな目で見るな。
心配そうに、そんな綺麗な目で俺を見るな。
游舞がそう思った瞬間、人型が大きく揺らいだ。
こめかみから首筋へ鱗が浮かび、前腕と背中には鰭がせり上がる。
「あ」
「鱗が……」
「見るな! 今こっち見るな!!」
游舞は慌てて後ろへ下がった。
足が浅瀬の段差を踏み外す。
「うわっ!」
「危ない!」
朗峻の腕が腰へ回り、游舞の身体を抱き留めた。
厚い胸板。逞しい腕。間近にある男前すぎる顔。
「大丈夫か?」
「…………」
游舞は答えられなかった。
近い。あまりにも近い。
想像したことなら何度もある。だが、まさか本当にこの腕に抱かれる日が来るとは思わなかった。
嬉しさに跳ね上がった鼓動を悟られまいと、どうにか表情を引き締める。
「……べ、別に、このくらい平気だ。……です」
「そうか?」
「ただ、まだ急に離さないでくれ……」
「ああ、分かった」
朗峻の腕に、もう一度しっかりと力がこもった。
内心で歓喜した、その直後だった。
密着した腰と胸元から、男の体温がじわじわと伝わってくる。
人型の男としては、ごく普通の体温――およそ三十六度。
游舞には、立派な熱源だった。
「……っ!!!!」
「ん?」
「あ……離れ……いや、離れるな! いや、でも離れ……!!!」
「どうした、君?」
離れた水路から、猛禽由来が叫んだ。
「やばい! 離れろ! ……いや、急に離れない方がいいのか!? どっちだ!!」
朗峻が慌てて腕を緩める。
「……離れた方がいいか?」
「あ……待て! 離れないで……!」
「嫌ではないのか?」
「嫌じゃな……でも……あ……熱い!!」
「あ……だめだ、逝く……」
*
天灯共同医療福祉院の処置室で、游舞は目を覚ました。
寝台の脇には陸獣由来と猛禽由来が立ち、その向こうでは栖梧が処置記録を確認していた。
「……またここか」
「またここです」
「今回は温泉じゃねえぞ」
「そうですね」
「水温も守った」
「ええ」
「なら俺、悪くなくねえ?」
「朗峻の体温を熱いと感じながら、離れることを拒んだと聞きました」
游舞は友人二人を見た。
「また全部話したのかよ!」
「館員に聞かれたから」
「正直に答えただけだ」
「お前ら、その言い訳好きだな!」
栖梧は小さく息を吐いた。
「今回は火傷も、由来組織の損傷もありません。治癒直後で刺激に敏感な肌へ体温と圧迫が加わり、感情の高ぶりで香律まで乱れた結果、一時的に意識を失っただけです」
「朗峻に抱かれて気絶したってことか……」
「簡潔に言えば」
「簡潔に言うな!!」
「強すぎる刺激は避けるよう、説明しましたね」
「まさか男の体温まで入ると思わねえだろ!」
「一度熱いと感じた時点で離れてください」
「……はい」
「で、でもよかったじゃねえか」
猛禽由来が記録板を差し出した。
「何が?」
「朗峻、またお前のこと書いてるぞ」
游舞は記録板を奪い取った。
「反省しろよ!」
「読んでからする!」
そこには、新しく上がった朗峻の記録が表示されていた。
『本日、以前湯殿で倒れた水域由来の彼と再会できた。回復した姿を見て安心したが、また身体へ負担をかけてしまった。俺の体温まで彼には強い刺激になるとは思わなかった。次こそは、彼が安心できる距離でゆっくり話したい』
游舞は、最後の一文を何度も読み返した。
「……次こそは」
「三度目も会う気だな」
「しかも、ゆっくり話したいってよ」
「…………」
游舞の顔が、みるみる赤くなった。
こめかみに鱗が浮き、背中から鰭がせり上がる。
「おい、また出てるぞ!」
「顔、真っ赤だぞ!」
「熱い……」
「何が?」
「俺が!!」
游舞は記録板を抱えたまま寝台へ倒れ込んだ。
「お前、今度は自分の体温で火傷する気か!?」
「このままじゃあり得る……!」
「あり得ません」
栖梧が冷たい布を游舞の額へ載せた。
「まず記録板を閉じて、落ち着いてください」
「それは無理だ……!」
「では、せめて横になっていてください」
「……はい」
朗峻に抱き留められれば熱い。
離れれば惜しい。
記録を読んだだけでも、自分が熱い。
游舞は額の冷却布を押さえながら、ようやく認めた。
「……俺、あの仙人に会うたびに煮えるんじゃねえか?」
「煮えてはいません」
コメント
1件
うわあああ游舞ぉぉぉ!!もう完全に恋してるじゃん……!「離れるな!いや離れろ!」って混乱して気絶したの可愛すぎるし、最後に「俺、あの仙人に会うたびに煮えるんじゃねえか?」って自分で気づくところも最高でした。朗峻の優しさもド直球で刺さる……。次こそゆっくり話せますようにって祈るばかりです🤍