大森視点
休憩していたとはいえまだ白い顔のまま非常階段から、
次の現場なのか移動をしようと、
しゃがんだままギターケース背負い、
星崎が立ち上がったため、
もう無理をさせてはいけないと咄嗟に腕を掴んだ。
驚いた表情をする星崎と目が合う。
「あの、
仕事ーー」
「あんまり自分のことをぞんざいに扱わないでくれる?」
違うーーー
本当はもっと優しく気使う声かけをするつもりだった。
なのに俺の口からは語彙が強めの言葉しか出なかった。
心配していることを伝えたかっただけなのに、
全然その通りに話すことができない自分に苛立つ。
多分俺の気持ちなんて分かってないだろうな。
心配されるほどの価値が自分にないといわんばかりに、
星崎は人を全く頼らない。
心が潰れてしまってからでは遅いのだ。
頼られたい。
甘えられたい。
ああーーーそうか、
俺はきっと星崎に依存されたいのかもしれない。
優しく包み込むような安定感のある低音で、
綺麗に丁寧に歌う彼をTikTokで見つけた時、
声の使い方の違和感で既に危うさを見抜いていた。
確かに綺麗な声だが、
ヘッドホンで改めて聴いてみると、
声に疲労を感じて俺は星崎のオーバーワークに気付いてしまった。
いつか声を失ってしまいかねない歌い方をしていた。
(そんなことになる前に止めないとダメだ!)
一日一日着実に星崎の世界が瓦解していくのを、
俺は大人しく黙ってなど見ていられなかった。
しかし本人にはその自覚がないのか、
俺への返答は随分あっさりとしたものだった。
再び星崎が俺に向かってスマホを翳した。
『僕はソロアーティストなので、
一人で出来る範囲のことしかしていませんので、
どうぞご心配なく』
この危うさしか孕んでいない現状を理解していないのだろうか。
あまりにも人を頼るのが下手すぎだ。
それともそうさせる「何か」が、
星崎の中にあるのだろうか。
(その何かを知りたいと聞いても、
はぐらかさずに答えてくれるだろうか?)
星崎はまるで俺が見えていないように、
スタスタと何事もなかったかのように、
どこかへと歩き出してしまった。
「ねえ⋯アレ絶対に大丈夫じゃないよね?」
「かなりしんどそうだったな」
藤澤の言葉に若井が同調する。
はたから見ても無理を押し通して見えるのに、
なぜか本人はなんてことないように振る舞っていた。
無理をするのが今回だけではなく、
日常的にあるとしたら、
星崎の毎日は地獄でしかないだろう。
「なんであそこまで自分を追い詰めるんだよ。
せめて理由が分かれば⋯⋯」
何もできなくて歯痒さが積もっていく。
多分追いかければ星崎はまだ近くにいるだろうとは思ったが、
なぜだか追いかけることはできなかった。
「いたいた。
次の現場に移動するよ。
車まわしてくるから裏口で待っててくれる?」
「「「はーい」」」
マネージャーの指示に三人が同時に反応した。
本当は歩いてもいける距離なのだが、
身バレ対策のため念には念を入れて、
車で移動することにした。
もともと徒歩でも十分足らずの場所なので、
俺たちはすぐ現場に着いた。
インタビュー後の仕事は歌番組の出演だ。
早速中に入るとアイドル、
シンガーソングライター、
声優など、
ジャンルを超えた幅広い出演者がひしめき合い、
スタッフもドタバタと忙しなく走り回っていた。
いろんな人が集まるために学ぶことも多く、
音楽番組は俺にとっていい刺激となっていた。
すると思いがけない人物の弾んだ声が俺の耳に入った。
「ふーさん!」
「あれ⋯たっくんと今日同じ現場だったんだね!
もしかしていつもの?」
「する!」
深瀬さんが両手を広げると何のためらいもなく、
その腕の中に星崎がすっぽりとおさまった。
は?
何今の?
どういう状況?
俺の時と態度が違いすぎだろ!
深瀬さんと星崎は数秒間だけ抱き合って離れた。
二人の間に流れる空気感はとても穏やかで、
お互いのことをあだ名で呼び合う親密さがあり、
気心が知れた間柄であることが伝わってきた。
「それって新曲の衣装ですか?
すっごく格好いいです!」
「へへっ⋯そうなんだよ。
俺も気に入ってるから嬉しい!
たっくんも頑張って」
少し照れくさそうに笑う深瀬さんと、
気安く砕けた口調で談笑する星崎を見ると、
あまり一緒にいてほしくないなと思ってしまう。
(何だこれ、
嫉妬か?
まさか⋯な)
雫騎の雑談コーナー
はいっ!
突然ですが、
次で前置きを含んでになりますが、
いよいよ10話という節目になるということもあり、
そろそろ違うキャラの視点で書きたいなと思います。
まあぶっちゃけ宣伝です。
ふーさん視点もありかなーとか、
まだユニット名しか出ていませんが、
双子アイドルのtwins⭐︎devil視点もどうかなーとか思ってみたり、
まだまだ書きながら構想中です。
仕事を抱える社会人なので、
まったり更新なのが申し訳ないですが、
とりあえず頑張ります。
乞うご期待!
てか期待してる人いるのか?
まあ♡はよくポチポチしてもらっているので、
とりあえずは一安心かな。
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