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確か……俺はあの時、寝たふりをした。
寝たふりというか、目を開けて夏樹がどんな顔をするのか確認するのが怖くて。
確認したくなくて。
嗚呼、そうか。
俺、逃げたのか。
「十夜……」
『十夜……』
あの日と今日と、唇が重なった。
カサカサした唇が俺の唇に触れる。
蝉の声が五月蝿くて、でも教室は冷房の稼働音と、
夏樹の小さく息を飲み込む音だけ。
そうか。俺が眠るのは、あの日本当に眠っていたとアピールする為かって。
「お前のせーじゃねーか!」
ゴンっと夏樹に頭突きした。
「いってー!」
額を押さえて椅子から落ちた夏樹を見下ろす。
唇をごしごしと腕で拭きながら。
「『俺が、一緒に犯人を探す』そう言ったくせに、
――お前、なんで俺にキス、してんだよ!
お前が!」
お前が犯人じゃねーのか!?
そう言おうとした唇が、からからになって音にならない息を吐き出す。
なぜだが、聞けなかった。
でも夏樹も悪びれもなく、真っ直ぐに俺を見て言う。
「お前が、キスして欲しそうな可愛い寝顔で誘うから」
「さ、誘ってねーだろうが! 馬鹿野郎! お前、あれか、その」
「あれ?」
「ホモなのか?」
自分で言って自分で真っ青になる。
「うん」
夏樹は何故か偉そうに、ゆっくり立ち上がりながら言う。
「お前限定の、ホモ」
「――!?」
つまり、俺は巨乳で美女の水着姿が好みなのだが、こいつは。
「お前、俺の身体目当てだったんだな!?」
ぶっ
夏樹が吹き出すと、盛大に転けた。
「お前、何でそんな言い方なんだよ! 確かにお前の水着姿が見たくて部活に誘ったけど、俺はお前が」
「うぎゃぁぁぁぁ!」
「十夜っ」
(水泳部の)王子のキスで目覚めてしまった眠り姫(?)の俺は、全力で逃げた。
好き?
水着姿が見たい?
俺限定の、ホモ?
俺たち友達じゃなかったのかよ!?
どう返したらいいのか、お前の気持ちに気づいたら何か変わってしまうのか。
それが怖くて眠っていたのに。
俺は――……。
早く来すぎた部室前、大きく息を吸い込むとドアノブを回す。
その時、部室から大きな物音がした。
「……やめっ」
「竜、止めてって、誰か来るからっ」
「うるさい! 好きだ!好きだ!好きだ!好きだ!
好きなんだああぁぁぁ!!」
カツン カツン
何かが弾け飛ぶ音がした。
って、
水泳部はホモの巣窟か!?
皆、水着一枚の姿に興奮してるのか?
「ホモなんか成敗してやる!」
俺は壁に立て掛けられるように乾かしていたビート版を両手に持つと、ドアを体当たりして開けた。
「はっ、――んぅ」
そこで見たものは。
見てしまったものは。
ベンチに押し倒される副部長と、
副部長を押し倒しキスしてる部長だった。
「やめ、こんなの、ダメ」
「馬鹿野郎! 意地を張るな――」
「馬鹿なのは部長だ! こらっ」
俺は部長にビート版を投げつけると、外に立て掛けているビート版を取りに戻る。
「蒼空くんっ」
「十夜」
ボタンが弾けたシャツを両手で握り締める副部長は、真っ赤で泣きそうな顔をしている。
脳みそまで筋肉の部長は、口をパクパクしていた。
「くらえ! ビート版アタック!」