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数分後、モールス信号によって素早く情報伝達がなされ、第四桟橋にある事務所で朗報を待っていたシャーリィの下へ一人のエルフが駆け込んだ。
「報告します!現地から連絡がありました!状況は全て終了、掃討戦へと移行する。以上です!」
「ご苦労様でした。無理はしないように伝えてください。貴女も休むように」
報告を受けたシャーリィは椅子から立ち上がって労い、エルフを下がらせた。
「どうやら上手くいったみたいだな?シャーリィ」
「得られるものがたくさんあった戦いでした。防諜、破壊工作に関する備えの重要性を再認識できましたからね」
ルイスの言葉に、シャーリィも安堵しつつ今回の戦いで浮き彫りになった課題を頭に浮かべる。
「マナミアの姐さん達が加わったし、ラメルの旦那も居るんだ。焦らず整えていけば良いじゃねぇか」
「本来ならばそうしたいのですが、あまり時間がありません。なぜならこの戦いは前哨戦に過ぎないのですから」
「『血塗られた戦旗』か?『オータムリゾート』に任せとけば良いだろう?」
「『オータムリゾート』は規模こそシェルドハーフェン有数ですが、武力と言う点では不安を抱えた組織です。レイミが居るとは言え、楽観視はできません。何せ相手は傭兵王率いる傭兵集団なのですから」
「つまり、俺達が片を付けないといけないって事かよ」
「その通りです。『血塗られた戦旗』は『エルダス・ファミリー』との戦いでも背後で暗躍していたのは確実。つまり、潜在的に敵なのです」
「敵なら叩き潰す、か。『エルダス・ファミリー』に続いて『血塗られた戦旗』まで潰せば、シャーリィとうちも有名になるな」
「あまり有名にはなりたくありませんけどね。ともかく、今は皆さんの凱旋を待って労ってあげましょう。セレスティンに宴会の準備をお願いしてください」
「はっ」
控えていた兵士に命じると、彼は復唱して退室した。シャーリィ自身も皆を労うために準備を始める。この戦いの影響がどんな結果を招くか。まだ彼女は知らない。
数日後、シェルドハーフェン一番街にある巨大なビル。そこはシェルドハーフェン有数の巨大組織『カイザーバンク』の本社である。
その一室で、『カイザーバンク』を率いるセダール=インブロシアが人払いを徹底した上で来客と対談していた。
その相手は黒いビジネススーツを見に纏い、帽子を目深に被り顔を隠した男性であった。
「三者連合が敗れ、『血塗られた戦旗』は手駒を失いましたか。これではせっかくの融資が無駄になってしまいますね」
三者連合敗北を聞かされたセダールは事も無げに答える。
「『血塗られた戦旗』は土壇場で『オータムリゾート』の圧力に屈したようだ。実に情けない話ではあるが、これで『暁』と『オータムリゾート』が同盟かそれに近い関係であることが分かった。それだけでも収穫があったと言えよう」
「仰有る通りかと。しかし宜しいので?このままでは『血塗られた戦旗』の敗北は覆せない。我々の融資があるとは言え、しょせんは傭兵上がり。『暁』相手では不足でしょう」
「君は『暁』を高く評価しているようだね?セダール君」
「有望な投資先として見ているに過ぎませんよ。『血塗られた戦旗』が敗れても十五番街は担保として徴収するので我々に損失はありませんが、そちらは損失が大きいのでは?」
セダールがそう問い掛けると、男は小さな笑みを浮かべる。
「いやいや、心配はご無用だ。確かに三者連合へ投じた資金は決して少なくはないが、代わりに面白いものが得られたのだよ」
そうして男は懐から帝国ではまだまだ普及していない写真を何枚かテーブルに並べた。
「戦闘の最中、我々はずっとかれらを、『暁』を監視していてたのだよ。そして、こんな面白い写真を得られた」
「拝見させて頂きます。……ほう?」
写真を眺めたセダールは、目を細める。
そこには降伏した者を容赦なく射殺し、更に死体を戦車で踏み潰す『暁』の所業が写し取られていた。
「戦車で死体を踏み潰すとは中々用心深いようだ。敵対者に対しては一切容赦をしないと言う姿勢はむしろ評価に値する。が、真相を知らない者がこの写真を見れば、どう思うかな?」
「助けを求めるものを無慈悲に殺害し、遺体を辱しめる行為に見えるでしょうな。しかし、そんなものこの街では日常茶飯事。誰も気にはしませんよ?」
「勿論裏社会の人間に見せても畏怖はするだろうが、それだけで終わるだろう。だが、君の手元には有用なカードがあるじゃないか。清廉潔白で、なおかつ帝国有数の武力と影響力を持つ最高のカードがね?」
「流石、耳がお早いですな。まさか、これを『聖女』に見せつけると?」
「彼女が見ればどうするかな?」
「弱者救済を掲げるほど正義感が強いのです。状況次第では排除に動く筈……いやはや、恐ろしい方だ。貴方は『聖女』さえも利用するのですね」
「『暁』には何度か邪魔をされてね。彼らに自覚はないのだろうが、そろそろ教育してやらねばと考えただけだよ。それにな、セダール君。帝国でも有数の奇才な少女達が争う姿には一種の快感すら感じないかね?」
「生憎、私にそのような趣味はありませんな。その写真を渡せば良いので?」
「頼めるかね?」
「他でもない貴方の頼みとあれば、断るつもりはありません。自然に聖女の手元へ届くように取り計らいましょう」
写真を全て懐へ納めるセダール。
「すまんね、こちらもクライアントに良い返事が出来そうだ」
「クライアント、貴方ほどの方を動かす存在ですか」
「おや?興味があるかね?なんなら一口噛んでみるかね?」
「いえ、その手の話は厄介な案件を呼び込むと学んでおりますので遠慮させていただきます」
「はははっ、賢い判断だ。そうそう、これを君に進呈しよう。労いだと思ってほしい」
セダールに書類を手渡す。
「これは?」
「フロウベル侯爵の借用書だよ。名義は『カイザーバンク』に変更してある」
「借金は……星金貨千枚ですと……?随分な大金ですな」
「ふふふっ、娘が清廉潔白で民のために尽くし、父親は娘の知名度を使って私腹を肥やす。金遣いの荒さは帝国有数だ。更に、帝位継承問題にまで首を突っ込んでいる。自分の娘を娶らせると匂わせてね?実に素晴らしい親子関係だと思わんかね?」
「ふむ、これでは『聖女』も浮かばれませんな。こちらは有り難く頂戴します」
「うむ、有効活用してくれたまえ。では、私はこの辺りで失礼しよう。君も多忙だろうからね」
男は立ち上がり、それに合わせてセダールも立ち上がる。
「貴方のためならばいくらでも時間を作りますよ。ただ、次回は事前に知らせていただけると助かります」
「はははっ、善処しよう。ではセダール君、また会おうじゃないか」
「またお会いしましょう、マルソン様」
深々と一礼してセダールは男を、帝国の裏社会に強い影響力を持つ闇の商人『闇鴉』の首領を見送った。
シャーリィを取り巻く環境は様々な人間の悪意によって少しずつ変化していく。