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「ん? 閃光のルーザーと【寄生先のムラタ】じゃねえか? 仲良く依頼達成の報告ですか?」
「エクス……」
魔石を回収して冒険者ギルドに帰ってくると、そんな悪態をついてくるエクスが掲示板を見ていた。
ルーザーさんはそんな彼を悲しく見つめると無視をして受付に座った。
「ちぃ」
エクスは一瞬悲しい顔をして舌打ちをすると、依頼書を一枚とって受付に叩きつけた。ずっとルーザーさんを睨みつけてる。
「おい! ムラタ! そんな真ん中で立ち止まってんじゃねえ! 邪魔だ!」
「あ、ごめん。……」
受付で依頼を受けるとすぐに外へ出ようとするエクス。
僕にわざと肩を当ててくる彼はとても痛々しく映った。本当は復活したルーザーさんを喜びたいはずなのに。
「ほんと男って素直じゃないわね……」
「……俺のせいだ。そっとしておいてやってくれ」
クリスさんが魔石の代金を革袋に入れて差し出してくる。ルーザーさんはそれを受け取ってため息をつく。
「俺は弟を失って自分を見失った。エクスは俺という目標を見つめて幻滅した。俺がまた凄い男になればあいつも元に戻る……。俺はそう信じてる」
「……男ってほんとめんどくさい」
ルーザーさんはそう言って席を立つ。そんな彼を見てクリスさんはため息をついて呟く。ほんとめんどくさい人達だな~。
「俺の話はここまでだ。コボルトがいた洞窟がおかしいんだ」
「洞窟? おかしいってなにが?」
ルーザーさんが話を切って本題を話し出す。
彼の報告を聞いてクリスさんは納得して依頼書を書きだす。
「コボルトの目撃情報があったけど、報酬が安かったから誰もやらなかったのよね。衛兵にも伝えて警戒してもらわないとダメね。もちろん、冒険者ギルドでも依頼を作るわ。報告ありがとうございます」
クリスさんはそう言って職員に依頼を張り出させる。僕らは早速その依頼を受けて洞窟前に向かった。
「おっと、罠にかかってるな」
洞窟前に着くとコボルトが仲間の死骸に食いついていた。共食い、この世界の魔物はそれを当たり前のようにするみたいだ。
「魔物はマナを欲する。魔物はマナで生まれる。マナで出来ている体を維持するために必要だから、仲間の死骸でもマナが多ければ集まってくるってわけだ。量が多ければ多いほど集まりやすい」
ルーザーさんはそう言って剣を抜いて切りかかる。僕らに気が付いていなかったコボルトは、彼の手によって3匹死を迎えた。
『マスターの危険を感知。助けを呼びますか? 【赤い騎士ジャネット 100ラリ】【青い剣士ジャン 100ラリ】【緑の狼ルドラ 100ラリ】』
「全員で!」
コボルトが僕にも狙いをつけると知らせがやってくる。僕は迷わずに全員を呼び出す。
「マスター! 僕の後ろに」
「了解」
出てすぐにジャンが声を上げる。ジャネットとルドラが襲い掛かってくるコボルトを蹴散らしてジャンが打ちもらしたコボルト盾と剣で防ぐ。
動きを止められたコボルトにとどめを刺す僕。なんだかカッコ悪いな~。って言ってる場合じゃないか。
「ははは、30匹くらいいるな」
10匹を倒した時点で洞窟からコボルトが湧き出てきた。その数で口角を上げるルーザーさん。
あんな数のコボルトに洞窟内であっていたら……、そう思うとゾッとする。それなのにルーザーさんは楽しそうに、嬉しそうに口角を上げてる。彼は僕と違って生粋の冒険者なんだな。
「ワンワン! 【ワン】」
さすがの数にルドラが声を上げて魔法を放つ。
風の砲弾を作り出して前方を消し飛ばす。抉れた地面が威力を物語る。実際、目の前にいた5匹のコボルトは消し飛んでる。
「姉さん! 僕達もやるよ!」
「ああ」
「【火炎よ! 波打て!】」「【湖よ! 飲み込め!】」
ジャンの声にジャネットが頷いて魔法を同時に放つ。赤い火炎と青い湖がコボルト達を飲み込んでいく。30はいたコボルトが綺麗に消えていく。
「……魔法使いみたいな奴らだな」
「ほんと」
ルーザーさんが笑顔で呟く。思わず僕も同意して答える。
「これなら洞窟の中であっても大丈夫だったか……」
「はぁ~、なに言ってるんだ。僕らは反対しなかっただろ? 帰ったのは正しかったんだよ」
ルーザーさんが恥ずかしそうに頭を掻いて呟くとジャンが慰めるように話す。その言葉にルーザーさんは嬉しかったのか、ジャンの頭を撫でまわした。
「それをやめろって言ってるの!」
ジャンはいつも通り嫌がって僕の背後に隠れた。
「魔石が回収できなくなるのが難点です」
「あ……そうだね」
楽しそうな二人を見ているとジャネットが呟く。洞窟前に散乱するコボルトの死骸。散り散りで魔石が回収できるのは僅かだ。
魔法はとても強いけど、それだけ死骸が破損する。そうすると魔石も壊れる。当たり前のことだよな。
「ま、まあ。さっきの分で十分な稼ぎになった。とりあえず、死骸を埋めようぜ。他の冒険者が来たら一緒に洞窟内を調査だ」
「はい」
ルーザーさんが気まずそうに話して死骸を埋める穴を掘っていく。僕は死骸を一か所に集めていった。
『村人からお願いが届いています』
「ん?」
死骸を集めていると知らせが来た。
ウィンドウを見るといつもの彼が手を振っていた。
『住宅の増築、荷物輸送の馬車を増やしたいのですがよろしいでしょうか!』
「へ~、住宅を増やすのか。ってことは人が増えるんだな。荷物の輸送の馬車は鍛冶屋が増えたことで必要になったか。いつまでも人の手だけじゃあね」
彼の言葉に納得する。なんせ、今まさに荷物が多くてため息が出ているんだから。僕も何か考えないとな。
僕は彼の提案をすべて了承する。4000ラリもしたけど、村スキルの中のお金はマイナスがないから増える一方だ。つまりは使わないと損ってこと。
しかし、いつまでも彼のことをただの村人と言っていていいのだろうか? 名前を付けたり、村長に任命したりできないのかな。
「ジャネット。村人に名前を付けることってできるのかな?」
「え? みな名前を持っていますよ」
「あ! そうか。じゃあ彼の名前を教えてくれる? いつも提案をしてくれて助かってるんだ」
ジャネットに聞いてみると当たり前のことを言ってくれた。そうだよね。生きているなら名前があるはずだよね。
「ふふ、喜びますよ。彼はイカルスと言います」
「イカルスさんだね」
「呼び捨てでいいですよ。彼も喜びます。だって、みんなマスターが大好きなんですから」
「そ、そうなの? それが本当なら嬉しいな」
ジャネットは嬉しそうに笑うと教えてくれる。こんなに人に愛されたことがなかったから嬉しいな。でも、そんなに好かれているのなら何かしてあげたいな。なにか持たせることもできないし……何かないだろうか。