テラーノベル
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訓練を終えてから俺はなんとか起き上がると、ふと庭の噴水の隣に剣が突き刺さった石のモニュメントが見えた。
その剣はまるで伝説の遺物のように荘厳だった。鞘を持たない刃は、苔むした岩に深々と突き刺さっている。
石の方には経年による劣化が見られるが、剣の方には錆などは一切なく、柄には精巧なコウモリの翼が彫刻がされている。
中央には赤い宝石が埋め込まれており、それは血のように深い色で、見る者の心を掴むようだった。
「なぁ爺や、これ何? 俺の部屋から見えてたんだけど、ずっと気になってたんだ」
「あまり近づかれるのは危険ですぞ。この剣には悪魔が封印されていると言われています」
「悪魔?」
「えぇ、庭の整備をしていたところ見つかったものでして。我々も撤去しようと試みたものの、石も剣も動かすことができなかったのです」
「へー」
なんだか抜けない剣って、アーサー王伝説の選定の剣みたいだ。
突き刺さった剣を抜くと王になれるっていう。
「…………」
俺はこれがふとゲームグローリーナイツで、主人公グローリーが解放していた聖剣の一本ではないかと気づく。
ゲーム中、俺は世界各地に赴いて聖剣を解放していたが、まだ発見していない聖剣が10本以上あった。その中の一本がこれなのでは?
俺は近づくなと言われたが、その剣を握ってみる。
剣は漆黒の刀身をしており、どこか不気味な雰囲気がある。
「ラウル様、危険ですぞ!」
「俺は選ばれし、王に、なる!」
そう意気込んで思いっきり引っ張ってみたものの、剣は全く抜けず。
当たり前だが悪魔も出てくる様子はない。
「ダメだった」
「本当に悪魔がいるのです、お気をつけ下さい」
「悪魔ってのは?」
「夜中、この剣の周りで若い女の声で、あはん、うふんという艶めかしい声が聞こえてくるそうです」
「爺や、俺のことバカにしてる?」
「滅相もございません! 本当のことなのです。教会に調査を3度願いましたが、担当した僧侶は皆悪魔がついているとおっしゃっています」
「会ってみたいな、その悪魔」
喘ぎ声のする抜けない剣。バカバカしいが気になる。
◇
数日後――
「ラウルちゃん、準備できたかしら?」
「はーい」
よそ行きの貴族服に着替えた俺と、同じく高級そうなドレスに着替えたママ上は、屋敷の前に停められた馬車へと乗り込む。
今日は3ヶ月に一回の謁見の日らしい。
父であるメッサー王に会いに行く日で、まぁ元気でやってるかと話をするみたいだ。
自分から島流しにしておいて呼びつけるのはどうかと思うが、呼んでくれるだけまだ親子の情があるということか。
父の住むリガルド城は、リガルド国首都【ブルダーク】にある。
当然このムカム島から出る必要があり、俺は初めてちゃんと島の様子を見ることができた。
馬車から見えるムカム島の景色は自然豊かで、どこを見ても緑が生い茂り、南国特有の生命力を感じさせる。ヤシの木や色鮮やかな花々が道沿いを彩り、鳥のさえずりが遠くから聞こえ、波の音が心地よい音を奏でてている。
道の片側には高台が広がり、その先にはエメラルドグリーンの海が広がっているのが見える。反対側には小さな家が並び立っており、漁師が船を出そうとしている姿が見える。
この島の規模は恐らく半径20キロ、人口4万人くらいってところじゃないだろうか。
連絡船に乗るため馬車が港に向かって進むと、島で一番大きい市場が近づいてきた。
賑やかな喧騒が遠くからでもはっきりと聞こえ、人々の活気が溢れているのがわかる。広い市場には、色とりどりの布が張られた屋台が立ち並んでいる。
新鮮な果物や魚介類がずらりと並び、特に巨大なヤシの実や真っ赤なドリアンみたいな果実が目を引く。地元の人々や観光客であろう人々が商品を見て回っていた。
「おぉ凄い、人がいっぱいだ」
馬車はマーケットの通りを、パッカパッカと通り過ぎていく。
「すみません、お土産を買いますので停めてもらっていいですか?」
ママ上が運転手に言って馬車を停めてもらうと、彼女は下車して手近なフルーツ屋台の前に立つ。
「すみません、ムカムフルーツを一籠貰えますか?」
屋台の中年店主は、まるでママ上が見えていないかのように無視をする。
「申し訳ございません、フルーツを……」
「…………」
「おいおっさん、なんで無視するんだ」
俺はつい馬車を降りて、声を出してしまった。
「はいはいムカムフルーツね」
文句を言われて、店主は投げやりにフルーツを籠に入れる。
しかし入れられたものは全て廃棄されそうな、色の悪いものばかりだ。
「随分色が悪いし、小さいものばかりじゃないか?」
「嫌なら他で買えばいい。どうせどこも売ってくれないだろうけどね」
「なぜそんなことをするんだ? こっちはただの客だぞ」
自分で言うのもなんだが、我金持ちぞ。
「自分達が嫌われ者だと理解したほうがいい。税金ばかり貪る悪王の一族め」
露骨に敵意を向けられたのはこれが初めてだったが、周囲の反応を見るに、どうやらこの島でグランツ王家は相当な嫌われ者らしい。
ママ上はお金を支払って籠を受け取ると馬車へと戻る。
馬車が動き出すと、俺は店員の態度の悪さに憤る。
「酷くない? 俺達に当たっても仕方ないのに」
「いいのよラウルちゃん。いつものことだから」
「えっ、いつもなの?」
「ええ、また税金が上がるってムカム商会の人たち皆怒ってるの」
ムカム商会とは、この市場を牛耳っている商業組合で、この島の6割くらいの商人が加入しているらしい。
「その矛先が私達に向くのは仕方ないの」
「でもこんな露骨な嫌がらせされるって、相当なめられてるよ」
「皆、私達が島流しにあった家族ってことを知ってるから。ごめんね、ママがしっかりしてないから」
「いや、ママ上のせいじゃないよ」
「ラウルちゃん、このフルーツ食べる? さすがにこれを王様には渡せないから」
俺は形が悪くて小さい、パイナップルみたいなムカムフルーツをかじってみる。
「苦酸っぱい」
甘みが全く無く酸っぱくて苦い果汁しかない。変な薬みたいな味がして死ぬほど不味い。
「この世の憎しみを集めた味がする」
「大丈夫ラウルちゃん? ごめんね、ぺーしよっか」
俺は苦すぎる皮をぺっと吐き出す。
「これは罰ゲームレベルだ」
リガルド帝国の悪役王子なのに、立場が弱いなと思いつつ馬車を走らせていると、市場の外れにぽつんとフルーツの屋台を開いているおばちゃん商人の姿が見えた。
「なぜあんなはずれに?」
俺は気になって馬車を停めてもらうことにした。
おばちゃん商人は、最初「いらっしゃい!」と元気よく言ったものの、馬車から降りてきた俺の顔を見た瞬間、露骨に顔をしかめる。
「なんだい、デブちん王子かい。客じゃないなら早く帰ってくんな」
「フルーツ欲しいんですよ。いい奴下さい」
「ウチはどれもいい奴だよ」
確かに並んでいるフルーツは、どれも色も形も良いものだと思う。
「あの、なんでこんなはずれに店開いてるんですか? ここ、ほぼ路地裏ですよ」
「……あたしゃムカム商会に入ってないのさ。上納金が払えなくて入れてもらえないんだけど、無所属の商人は市場を使わせて貰えないのさ」
「でも市場にそんなルールないですよね?」
「暗黙の了解って奴さ。あんたにはわかんないかもしれないけどね。弱い立場の民は、どうあがいても上にはあがれないのさ。その一番トップにいるのが、あんたら王族でしょうに」
「今しがた民にいじめられてきたところなんですけどね」
俺はフルーツの籠を受け取ると、金貨を一枚テーブルの上に置く。
「ちょっと待ちな、籠一つで銅貨40枚だよ。こんなにいらないよ」
「ちゃんとしたフルーツを貰えたので。嫌味とか施しだと思ったなら、必要な分だけとって捨てて下さい」
「あんたねぇ……」
おばちゃんは困った顔をしながら、ちょっと待ちなと言って奥からおっきなムカムフルーツを取り出す。
手早く皮を鉈で切り落とすと、果汁を絞り他のフルーツを添えてトロピカルなジュースを作ってくれる。
そこに飲み口が二つあるハートになったストローをさして、手渡してくれた。
「こいつは今年とれた中で最高のムカムフルーツさ。と言っても金貨になるほどの値段はつかないけどね」
「ありがとうございます。あのストローがカップル用なんですけど」
「馬車の中にいるの、あんたの女じゃないのかい?」
「一緒に住んでる義母です」
「嘘言っちゃいけないよ。あんな若い母親がいるわけないだろ」
「そこはいろいろありまして……」
おばちゃんは口の端に、毎日ヤッてるんでしょとゲスい笑みをうかべる。
まぁ仕方ないか、あんな悩ましボディの女性と暮らしていて関係を否定するのは難しい。
俺は形の良いムカムフルーツが入った籠と、ムカムジュースを持って馬車へと戻る。
「お土産買った。ジュースも貰った」
「凄いわラウルちゃん」
「一緒に飲もう」
ママ上は、ハート型にカーブしたストローを見て少し恥ずかしそうにする。
二人でストローを吸うと、甘くて美味しいジュースが口の中に広がる。
◇
商人のおばちゃんは、馬車の中で仲睦まじくトロピカルジュースを飲む二人を見て呟く。
「やっぱりカップルじゃないかい」
コメント
1件
第4話、読み終わりました! 物語の雰囲気がだんだん掴めてきて、すごく楽しかったです。 まず、庭の「抜けない剣」と「悪魔の喘ぎ声」のくだり、不気味さとバカバカしさのバランスが絶妙で思わず笑いました(笑) そして、市場でのラウルとママ上の立場の弱さが痛々しくて……あんなに嫌がらせを受けてるのに、おばちゃんに金貨を渡す優しさが光ってますね。 最後のハートのストローで二人で飲むジュース、ほっこりしました。良い夫婦(?)の距離感だなあ。
🍎🥧アップルパイ
80
#ブルーロック
🍎🥧アップルパイ
59
#もしかしたらグロいかも
海月
38