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シュッ、と鋭い音が静まり返った庭に響く。
遥は脂汗を流しながら、暗闇の中で何度もラケットを振り抜いていた。松葉杖を傍らに放り投げ、片足に重心をかけるたび、患部に鈍い痛みが走る。
「……っ、これくらい……」
脳裏にあるのは、凌先輩と並んで歩いていった紗南の背中だ。凌先輩の持つ余裕が、今の自分にはたまらなく焦りとして跳ね返ってきていた。
「おい、遥。何してる」
少し呆れたような声がした。隣の敷地との境界付近に、ジャージ姿の小谷先生が立っていた。
「……先生。別に、ただの素振りです」
「その足でか。お前が壊れたら、誰が一番困るか分かってるのか」
先生はゆっくりと近づくと、遥の手からラケットをひょいと取り上げた。
「返せよ、先生……」
「返してほしければ、まずは家に入って足を休めろ。朝倉がこれを見たら、また心配して泣きそうな顔をするぞ。あいつを困らせたいのか?」
遥は視線を落とし、黙り込んだ。
「焦るな。お前がコートに戻る場所は、ちゃんと空けてある。朝倉も、それを待ってるはずだ。今日はもう寝ろ」
先生はそう言って、遥の肩を軽く叩いた。