テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝、朝練前の部室。
私は一人でボールの空気圧をチェックしていたけれど、手元がおぼつかない。昨夜の凌先輩の言葉と、冷たい態度だった遥のことが頭から離れなかった。
「……おはよう、紗南ちゃん。早いね」
後ろから声をかけられ、肩が跳ねる。振り返ると、そこにはいつもの穏やかな笑顔を浮かべた凌先輩が立っていた。けれど、その手には見覚えのあるラケットが握られている。
「あ、凌先輩。おはようございます。それ……」
「これ? 昨夜、小谷先生がうちに寄ってね。遥が庭で暴れてたから没収したって。朝倉に渡しておいてくれって頼まれたんだ」
先輩は少し困ったように笑いながら、そのラケットを棚に置いた。
「遥、また無理したんですね……」
「あいつなりに焦ってるんだろうね。……でも、俺はもうあいつに遠慮はしないって決めたから」
凌先輩は一歩、私との距離を詰め、私の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳は、暗い夜道で見たときと同じように、強く熱を帯びている。
「昨日の話、ちゃんと考えてくれた? 『誰よりも大切にしたい』って言ったこと。……返事は今すぐじゃなくていい。でも、ちゃんと俺のこと、一人の男として見てほしいんだ」
先輩の指先が、私の頬に触れようとしたその時。
「……何やってんだよ、二人で」
部室の入り口に、松葉杖をついた遥が立っていた。昨夜の無理がたたったのか、少し顔色が悪い。その視線は、私と凌先輩の間を刺すように睨みつけていた。